安室狂愛

□甘いクッキー
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からんころん、喫茶ポアロの扉を開けると真っ先に安室さんの姿が目に入る。


「いらっしゃいませ」

にっこりと笑う安室さんにつられてぎこちない笑みを返す。

軽く会釈をしてからいつもの席に座り、勉強道具を広げると、安室さんの声がふってくる。


「お飲み物は何にしましょう?」

『えっと…、ホットコーヒーで』

「かしこまりました」




梓さんがコーヒーを持ってきてくれてから勉強に熱中していると、とんとん、と肩を叩かれる。
何事かと思って顔を上げると目に入る安室さんの顔。

「よかったら…、これ、どうぞ」

安室さんが差し出したのは、可愛らしい小瓶に入ったクッキー。

あの、と聞き返そうとすると、にこりと笑って

「僕からのプレゼントです。勉強頑張ってらっしゃるので…」

少し照れたように言う安室さんに、こっちまで恥ずかしくなってなんとか頭を下げる。
そんな、たまたまポアロでしてるからそう見えるだけで他のみんなだって…。

「では、頑張ってくださいね、瑠璃さん」


名前、覚えててくれたんだなぁ、なんて思って顔が熱くなる。
なんだか、恥ずかしいな…。

ふと目に入る、安室さんのくれた小瓶。
可愛いな、この小瓶。でもなんだか悪いや…。
そう思いつつしっかり中に入っていたクッキーを食べる。おいしい。クッキー、大好きだから嬉しい。



一通りの勉強を終えて、ポアロをでようとする。
安室さんに挨拶しておきたかったが、姿が見当たらないので少し残念な気持ちになりながら店をでる。

相変わらず、酷い雨だな…。

傘を差して家路につく。

今日も家には誰もいないだろうけど。

私の両親は二人ともよく出張で海外にでている。
朝起きればいないことなんて当たり前のことで、お金がただぽつんと置いてあるだけだ。

一昨日でていったばかりだから、1,2か月は帰ってこないだろうな…

ぼんやり、そんなことを考えている内に家に着く。
鍵をとりだそうと鞄を漁るが、いくら探してもどこにもない。

どうしよう。落としたのかしら。

仕方ない、鍵屋さんに電話しよう…
そう思い携帯を取り出すが、電話をかけようとするとバッテリーが切れてただの鉄の塊になる。

困ったな。とりあえず、蘭の家に行ってみよう。

先程帰った道をもう一度歩き、蘭の家を目指す。
雨が服にしみる。やっとの思いで毛利探偵事務所につくも、灯りの消えている事務所。

近くで待っていようか。だけど今日は金曜日。もしかしたら帰ってこないかもしれない…。


「……瑠璃さん?」

背後から声をかけられて振りむく。あ、安室さん。バイトが終わったのかな。なんて考える。

雨はさらに強くなり、低く響く地鳴りのような音すら聞こえる。

新一はどこにいるんだろう?
全く関係のないことなのに、安室さんを見た瞬間、ふ、とそんなことを思った。



140719

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