安室狂愛

□轟く雷鳴
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「何してるんですか?」

はっと我に返る。
安室さんの顔は探るような、怪しむような、不思議そうな、読めないカオをしていた。

『あ…。えっと…。家の鍵をなくしてしまって。それで蘭…毛利さんの家に行こうと思ったんですけど』

いなくって、と言うと、安室さんはそうでしたか。ポアロを少し見てきます。と言って喫茶ポアロに入っていった。

優しい人だな。
事務所を見上げながらぼんやりと思う。

それと同時に、濡れた身体が冷えてきて思わず身震いをする。
10月初め、濡れた制服では少し寒い。


安室さんがポアロからでてきて、首を横に振る。

「すいません。見つかりませんでした」

『あ、いえ。本当、すみません。ありがとうございます』


蘭たちはすぐに帰ってくるのかな。もう少しここで待っていようか。

「あの、恐らく毛利さんたち、今日は帰ってきませんよ」

『え?』

安室さんを見上げると、考え事をするような表情。たしか、と。

「今日は依頼である別荘に行っているはずです」

どうしよう。先ずそれが頭に浮かぶ。でも次にある疑問も浮かぶ。

『あの…。どうして安室さんがそんなこと』

この聞き方はまずかったかな、と思う。
でも気になる。一階にポアロがあるとしても、どうして安室さんがそんなことを知っているのだろう?

「君は…」

くすっと笑いながら何かを言う安室さん。だがその声は雷の音にかき消される。
君は?私がなんだというのだろう?

「いえ。僕は毛利探偵の弟子、なので」

『あ、そうなんですか』

そういえば探偵だったんだと思い出す。
なんて呑気なこと考えてないで。
これからどうしよう。どこか、最悪公園で一晩…

「今日、あてはあるんですか?」

『うぅ…、まぁ、最悪公園でも夜は明かせますし』

苦笑い。この雨の中公園は避けたいけれど。と付け足す。

「ダメですよ、公園なんて。……僕の家にきますか?」

え。思わず安室さんの顔を凝視する。まだ会って2日しか経ってないのに。それは色々と問題があるんじゃないか。

「あ、いえ、あの。もちろん嫌ならいいんですが」

どうしよう、なんて答えたら…。悩んでいるところに、ピカッと一際大きな稲光。
その後に引き裂くような雷の音が聞こえて、ひっ、と声が上がり思わず傘を投げ捨て安室さんに寄り添ってしまう。

2秒後、自分のしたことに気付いて離れようとするが、腰に手をまわされぐっと力を入れられる。

『あ、あの…ご、ごめんなさい…あの』

「寒いんですか?…震えてます」

自分が震えていることに気付く。多分寒さと驚きと恥ずかしさと…色んなことが原因だと思うが、ぴたりとくっついた安室さんの身体は、確かに温かかった。

「…ダメですか?」

いつもより、近い場所で声が聞こえて心臓がどきどきする。恥ずかしくって顔があげられない。幾分哀しそうな声が耳に残る。

『じゃあ…、あの、いいですか…?』

正直、携帯も使えないのに今から友達の家をまわるのは気が引ける。雨はさらに強くなっているし、何よりも寒い。


「行きましょうか」

そっと腰に回していた手を外し、片手で傘をもったまま器用に着ていたジャケットを脱ぐ。
ふわりと肩にかけられる。あったかい…。

『安室さん、寒いんじゃ…』

ジャケットの下は薄着で、濡れていなくても寒いに違いない。

「大丈夫ですよ。そんなに遠くありませんから」

『あ、傘…』

「あれ、もう使えないと思いますよ」

ぱっと自分の投げた傘を見ると、骨が折れて変な形をしていた。せめて捨てないと、と思うも風が吹いて道路にでていってしまう。

「いきましょう?」

優しく声をかけられ、肩を抱いてくれる。
ジャケットと、抱かれた肩のおかげで少し寒さが和らぐ。


遠くの方ではまた雷が激しくなっていた。
雨はいつになったらやむのだろう。酷い雨を感じながら、ふとそんなことを思う。


140719

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