安室狂愛

□侵食
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『……ん…』

眩しい光に目が覚めた。
大きな窓から光りが降り注ぐ。ここ、どこだっけ。どうしてベッドで寝ているの?私は、昨日…

はっと昨日のことを思い出し、急いで身体を起こす。


「おはようございます」

背後から声をかけられ、びくっと肩が揺れる。ぱっと振り向くと、優しい笑顔の安室さん。

『おはよう…ございます…。あの、私、昨日』

「驚きましたよ。お風呂から上がってきたらソファーで爆睡してるんですから」

風邪をひくといけないのでベッドに運んでおきましたよ、と。じゃあもしかして、安室さんはソファーで?と聞くと、ええ、まあ、と返される。

『すみません。ベッドお借りしちゃって』

「構いませんよ。可愛い寝顔と寝言も聞けましたから。ついでに涎も」

『ええ!?寝言と涎!?』

それはまずい、と声を張り上げれば、昨日のようにくつくつと楽しそうに笑う。本当に君はからかいがいがありますね、と。


『やめてください、恥ずかしい…。あ、携帯…』

ちゃんと充電してくれていることに感激を覚える。今日のうちに家には入れそうだ。

「バッテリーが切れたと言っていたので」

『本当、ありがとうございます』



何度も何度も礼を言って、安室さんの部屋を後にする。送っていきます、と言われたが、昨日のこともあって一人で大丈夫ですと言えばそうですか、と悲しそうな顔。
どうしても、一人で帰りたい気持ちもあったし、何より安室さんに家を知られるのが怖かった。

こんなにも、お世話になったのに。
失礼だという気持ちを抑えつつ、家に帰る。







月曜日、いつものように登校する。
日曜日はポアロにでも行って、もう一度お礼しないと…と思ったのだが、なんとなく会いたくなくて先送りにしてしまった。

何より、金曜日に見たメモのことが頭から離れない。
明日。きっと明日、安室さんは「その人」を「始末」するんだろう。
お礼を言うのは、それの後にしよう…。そう考える。

「おはよう、瑠璃」

『あ、おはよう、蘭、園子、世良さん』

登校している途中、蘭、園子、世良さんに会う。

「どうしたんだ?深刻そうな顔して」

世良さんが心配したように声をかける。ううん、なんでもないの、と返すとそうか?とまたも心配そうな声。

「なんかあったら言えよ?明日はボクら三人ともいないんだからさ」

『え?いないの?』

「こないだ言ったじゃない!明日はお父さんの仕事の関係で私と園子と、コナン君、お父さん、安室さんの5人で…」

そういえばそんなこと言ってたっけ、と思い出す。

「瑠璃もこればよかったのにぃ。おいしいご飯とイケメンたちが沢山…っ!」

「ちょっと園子!お父さんの仕事で行くんだからね!」

分かってるわよ、いつものやりとりを繰り広げる3人を見て、何かが心に引っ掛かるのを感じる。なんだろう?

「ボクも行きたかったなぁ。明日に限って用事が入っちゃってさ。その安室っていう人にも会ってみたかったし」

どきん、心臓が跳ねる。それと同時に引っ掛かっていたものに気付く。

明日、安室さんは蘭たちと一緒に行く。
待って、「その人」を「始末」するのは「明日」じゃなかったの?

違う。

いつの間にか歩みを止めてしまった私に3人が声をかける。

違う。「今日」だ。

どうしたの?と声をかけられるより先に、叫ぶ

『ごめん!忘れ物した!!先に行っといて!』

言い終わるのが先か、メモに書いてあった住所に向かって走り出す。
私はそこにいってどうするつもりなんだろう。
ただ心にあったのは、土曜日に見た安室さんの優しい笑顔。
その笑顔を汚さないでほしい。始末、なんてそんなこと…


はぁ、はぁ、と自分の荒い呼吸が響く中、書いてあった住所に古びたアパートを見つける。
郵便受けを順に見る。××、メモに書いてあった名前を見つけ、おもわず唾を飲み込む。


急いでその人の部屋に行き、インターホンを鳴らす。お願い、出てきて。今ならまだ間に合う。朝ならきっと彼はまだここにきていないはずだ。

がちゃ、と扉が開く。訝しげな顔をした、小太りの男性が顔をのぞかせる。

『逃げて!!早く!!今ならまだ…』


その男性の顔が、一気に青ざめるのが分かった。私を見て。いや、違う。私の後ろ…?


振り向こうとしたとき、どん、と首に衝撃が走った。
目の前の男性が、尻餅をついているのが目に入る。一体、なにが起こったの…

消え入りそうな意識の中、背後で楽しそうに笑う彼の声が聞こえたような気がした。



140721

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