安室狂愛
□絶望の始まり
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固く閉じられたカーテンから、うっすらと日が差し込んで、もう日が十分に高いことに気付く。
起き上がると、秘部にはしるジクジクとした痛み。
『あ……』
両手が自由になっていることに少し安堵したが、その手首についた痣を見て、昨日のことは夢じゃないんだと涙が溢れる。
『う…っく…っ』
悔しい。恥ずかしい。どうしよう…
色んな気持ちがごちゃまぜになっては涙となっておちる。
暫く泣いていたが、泣いていても仕方ない、と首を振り、ベッドから足を下ろす。
服は制服ではなく短いズボンとパーカーを着せられていた。ブラジャーはつけられていない。手洗いにむかうと、履かされている下着が自分のものではなく、新しいものであることに気付く。
一通り部屋を見て回ったが、どうやら安室さんはいないようだ。
そういえば蘭たちとどこかの別荘にいくんだっけ。
いなくてほっとする気持ちと、言いようのない不安な気持ち。
ふと玄関が目に入り、淡い期待を抱きながらドアノブを回してみるが、がちゃがちゃと無機質な音が響くだけ。
中から開けるのにも鍵がいるみたいだ。はあ、思わずため息が出る。
これから、どうしよう。
最早絶望以外の何物でもない状況である。
お腹すいたな…。
こんなときでもお腹は減るらしく、ぐうと鳴るお腹が恨めしい。
食卓に目をむければ、目に入る白い器。
中をのぞくとおいしそうなチキンライスにラップがかけられていた。
食べていいものか迷ったが、ここまでこれば図々しく食べてやろうと腹をくくり、ラップを外す。
『……おいしい…』
ただのチキンライスが酷くおいしく感じる。
そういえば昨日の朝から何も食べてないっけ。空腹は最大の調味料なんて言うが、全くその通りである。
あっという間にすべてを平らげ、いつもの癖で洗い物をすます。
いない間にちょっと部屋を探索してやろう。そう思い部屋を見て回る。
随分片付いた、こざっぱりとした部屋だなあと思う。
無駄なものはなにもなくて、安室さんらしいと言えば安室さんらしい。
ただ殆どの引き出しには鍵がかけられていて、流石その辺ぬかりないなと変に感心してしまう。
ふと大層な本棚が目に入る。人気所から難しそうな本までぎっしりはいっている。
やることもない。本でも読んで気を紛らわそう。
『……ん』
本を手に持ったまま、うたた寝をしてしまったようだ。
ソファーで伸びをして小説に目を戻そうとすると、がちゃり、と不穏な音。
思わずばっとリビングの入口に目をやる。
「ただいま…おや、小説を読んでいたんですか」
案の定会いたくない人が入ってくる。何も言わないのもなんだかなぁと思い、おかえりなさい、と呟く。
私がそう言ったことに驚いたのか、目を見開いてから嬉しそうに笑う。
「待ってくれている人がいるっていいですねぇ」
…待っていた訳ではないが。しゅるしゅるとネクタイを緩め、着替えに脱衣所にむかう安室さんを見送る。
一体、彼の目的はなんだろう。
不快感を覚えながらも、それをかき消すように大きくため息をつく。
「大きなため息とはあまり穏やかじゃない」
『ひっ!』
いつのまに着替えていたのだろう。急に声が聞こえて思わず声があがる。
すっとソファーに近づいてくると、私に手を伸ばす安室さん。思わず身構える。
ソファーに乗りかかり、あっという間に抱きしめられる。そのままソファーに倒れこみ、ふう、と大きく息を吐く。
昨日のこともあり、恐怖に身体を離そうと腕に力をいれてみるがビクともしない。
『…や。離して…ください…苦しい』
あまりに強く抱きしめられすぎて息が苦しくなってそう言えば少しだけ腕の力が緩められる。
好きでもない男に抱きしめられ、抵抗もできない。
屈辱だ。唇をかむ。
「…疲れました」
そんなの私の知ったことか。と言わんばかりに無視して顔をそむける。それが気に食わなかったのかぐっと片手で頬をつかまれ視線を合わせられる。
鋭い獣のような視線と交わる。どくん。なぜか心臓が大きく打つ。
『…んぅ…ぅ…』
ちゅ、と口づけをされる。角度を変えて何度も何度も重ねられる唇。
いやだ、とまたも腕に力を入れるがちゅる、舌が入り込んできて力が抜けてしまう。
舌を絡められ、吸い付かれればぞくりと背中を走るなにか。得体のしれない何かが怖くてぎゅっと安室さんの服にしがみつけば気を良くしたのか益々激しくなる口づけ。
『…っはぁ、はぁ』
苦しそうに息をする私を見て優しく微笑み頭を撫でられる。
「お風呂にはいりましょうか」
ふわ、と身体が持ち上げられる。急に浮遊感に襲われ思わずしがみつく。
そのまま脱衣所に向かう足。…やだ!これから起こることが容易に浮かび抵抗しようとするが抑え込まれてしまう。
抵抗しても無駄だ。
どこかで諦めたような自分の声を聞いて、そっと静かに目を閉じた。
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