安室狂愛

□いつもの日常
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「そんなにびっくりしないでくれよ。それよりなんでこんなところにいるんだ?」

家、こっちじゃないだろ?驚いたように言う世良さんに平静をなんとか装う。

『おはよう。ちょっと友達の家に届けないといけないものがあって』

上手く嘘を吐けただろうか。少しばかり無理があったかもしれない。

「ふーん…。あ、そんなことよりどうして無断で休むんだよ!心配したじゃないか!」

話題が変わったことにほっとする。怒ってくれる世良さんに頬を緩める。私、戻ってきたんだ。いつもの生活に…。

『ごめん、ちょっと充電きれたまま携帯なくしてて』

嘘ではない。正確にはなくしたんじゃなくて隠されていたんだけど。

『でももう見つかったから大丈夫!体調もよくなったし!』

「やっぱり体調が悪かったのか。二日前の朝もおかしかったもんな。吃驚したよ。忘れ物!って言ったきり帰ってこないんだから…」

『家に着いたらしんどくなっちゃって…』

二日前の朝。それを聞いてどきっとする。あの日。あの、悪夢の始まりの日。

その後に蘭と園子に出会い、一緒に登校する。他愛のない話をしながら、こうしていると、本当に悪い夢だったみたい。そう思う。

あの暗い部屋に閉じ込められていた自分が遠い日のようで現実感がない。本当にあれは現実だったの?悪い夢じゃなくて?

学校に着き始業のベルがなる。一限目の授業を受けながら、ふと手首の痣が目にはいりやっぱり夢じゃないんだ、とため息が出た。

痣は袖をなるべく伸ばして隠さないと。10月でよかった。ブレザーを着ているし、腕をまくったり、上げたりしなければまずバレることはないだろう。

お昼を知らせるチャイムが鳴る。もうお昼か…。この間までは早く授業が終わって欲しくてたまらなかったのに、今は授業が終わらないで欲しいという思いでいっぱいである。

授業が、学校が終わればまた、あの部屋に私は帰らなくちゃいけないのだから。


「瑠璃、大丈夫?まだ体調悪いんじゃないの?」

5限目終わりの休み時間、蘭が声をかけてくれる。次が最後の授業。これが終わればまた…。

『ありがと蘭…。まだちょっとダメかも。でも次で終わりだから大丈夫だよ』

にっこりと笑って答える。次で終わり。自分の言った言葉が酷く重くのしかかった。

「あんまり無理しちゃダメよ?」

『うん、ありがとう!』

そこまで話したところでベルが鳴る。席に戻る蘭を見送って、化学の先生の方を見る。

「この間のテストを返します」

化学、か…。
名前を呼ばれ、テストをとりにいく。いつもより高い点数。教えてもらったところにはきちんと丸がついている。

「瑠璃、何点?…えっ!すごいじゃない!」

なに抜け駆けしてんの!と叫ぶ園子。今まで赤点ぎりぎりだっただけに驚きも大きい。

そっと教えてもらったところをなぞってみる。あの時も、雨が降っていたっけ…。


6限目も終わり、蘭たちに遊びにいこうと誘われたが体調が悪い、と断る。
本当は一緒に遊びたかったけど…。言いつけを守らないと後が怖い。

とぼとぼと家へ帰っていくと次第に大きくなる不安感。孤独感。
大丈夫、大丈夫と言い聞かせ家の中に入った。



一方で、瑠璃の後をつける、影がふたつ。

「普通に家に帰っていったね…」

「ああ…。そうだな」

「どうして世良の姉ちゃんは瑠璃姉ちゃんがおかしいと思ったの?それになんでボクも一緒に…」

「コナン君も瑠璃と仲が良いから心配かと思ってさ」

「そりゃあ心配だけど…」

「おかしいと思った理由は…。そうだな、まず酷く何かに怯えてる感じがしたんだ」

「怯えてる?」

「ああ。朝、最初に声をかけたときも怯えていたし、学校が終わるにつれてだんだん酷くなっていった。考えられるのは…」

「脅されてる、とか?」

「その通り。だからどこかに行くんじゃないかって思ったんだけど…そうじゃなかったみたいだね。でも怯えてるより、もっと気になることがあったんだ」

「何…?」

深刻な世良の表情に、コナンも思わずごくりと唾を飲み込む。

「痣だよ」

「……痣?」

「ああ。手首に強く縛られたような痣があった。しかもそれを必死に隠しているようだった」

「………」

手首の痣。つながらなかった電話。怯えた表情。
すべてのピースがバラバラで、まだつなぎ合わすことができない。
苛立ちを募らせながら、瑠璃になにかが起こっている、と、
二人は瑠璃の家をじっと見つめながらため息をついた。


140726

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