安室狂愛

□きっと、いつもの
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「…ちゃん…ぇちゃん!…瑠璃姉ちゃん!」

「瑠璃!」


大声で何度も何度も名前を呼ばれ、少しだけ目を開けてみる。
先ず目に入ったのは世良さんと、コナン君の顔。私の顔を覗き込み、必死に私を呼んでいる。


『コナン…君?世良さ…ん?』

「瑠璃姉ちゃん!」

「良かった…」

まだ頭がくらくらしたが、身体を起こす。此処は…いつもの自分の部屋の、自分のベッドか…。

「本当に本当に心配したんだからな!」

ひし、と私に抱きつき、大きく息を吐く世良さんに困惑する。

『どうして…?』

「どうしてって決まってるだろ!何日も学校にこないし、連絡もつかないし、家も鍵がかかってて入れないし!何してたんだよ!」

語尾がだんだん強くなっていく世良さんにコナン君がちょっと落ち着いて…、と宥める。何をしてた?私は…。

『ごめんね…。ちょっと風邪をこじらせてて…。家からでられなくって』

「本当に?安室って人に何かされてたんじゃないのか?」

『アムロ、?』

私の吐いた言葉にはっとコナン君と世良さんは顔を見合わせた。アムロ、って誰だろう。何かされてた、って?

「ね、瑠璃姉ちゃん、本当に安室さんのこと覚えてないの?」

『覚えてない…初めて聞いたよ、そんな名前』

「じゃあ今までなにをしてたの?」

『だから、ずっとこの家で風邪で寝てて…』

私の記憶は「そう」だ。余程熱が高かったのか、途切れ途切れにしか思い出せないが、酷く苦しかったのを覚えているし、熱をだして寝ていた、が私の中の記憶だ。
…そうだよね?ぼんやりとしか思い出せない頭を奮い立たせようとする、が、ずきんと鈍く頭が痛んだだけだった。

『…った…』

「大丈夫か!?」

痛む頭を押さえれば、心配そうに頭を撫でる世良さんの手。あれ?私、こうして誰かに頭を…?何かを思ったとき、ピリリリリ!と携帯が鳴った。

「あ、ごめん、ボクの携帯だ…」

そう言って携帯を取り出したコナン君が「安室透」と書かれたディスプレイを見て顔色を変えた。
この人がさっき二人が言っていたアムロさん、なのだろうか。

廊下に飛び出し、世良さんもそれを追いかけ部屋に残される。



「…もしもし」

「やあ…コナン君。今は瑠璃…さん、の家にいるのかい?」

「そうだよ」

「少し会って話がしたいんだけど、今からポアロの前にこれるかな」

「分かった…」

「世良真純も一緒かな?いるなら彼女も連れてきてほしい」

コナンはちらり、と世良の方を見た。世良もそっと頷く。

「分かった。今からポアロの前だね?」

「ああ、よろしく頼むよ。ちゃんと瑠璃さんは部屋に残してきてね…じゃあ、また後で」

「あ、ちょ!安室さ…っ!」

ぷつん、と電話が切れて無機質な音が鳴り響く。

「会ったら絶対一発殴ってやる」

怒りを隠そうとしない世良にコナンはまーまー、と苦笑いを浮かべた。

「瑠璃姉ちゃん!」

『うん?電話は終わったの?』

「うん!あのね、今からちょっと世良の姉ちゃんと買い物に行ってくるから、家で待ってて!」

『買い物?』

「風邪で寝てたんだったら体力つけなきゃ、だろ?大丈夫!ボクこれでも料理はできるほうだからさ!」

『ええっ!?悪いよ、そんなの!』

「いーのいーの、病人はゆっくりベッドで寝とけって!」

ぐいっと半ば強引にベッドに運び込まれ、何を言っても無駄か、と諦める。

『じゃあ、お願いしようかな…。あ、雨酷いみたいだから気を付けて…。傘持って行っていいから』

「分かった!瑠璃姉ちゃん、家から出ちゃダメだよ?」

『はいはい』

念を押すように言われ、苦笑い。でもまあ、まだ身体も万全とは程遠いし、今はお言葉に甘えるとしよう。

「じゃあ行ってくる!」

「行ってきまーす!」

『いってらっしゃい』

二人を送り出し、ベッドに横になる。
頭にずっと霧がかかってるみたい。なにか、重要なことを忘れてる気がする…。
でも、それを思い出そうとすればずきん、と頭痛が邪魔をする。風邪が治りきってないんだろう…。大きく息を吐く。



一方、雨の中、二人は神妙な顔つきでポアロに向かっていた。

「いよいよ、か」

「…そうだね」

今までずっと隠されていた真実が暴かれる時がきた。
次第に焦る気持ちを抑え、ポアロに向かう。
ポアロの前に、立っている人影。
歩くことができなくなって、思わず走り出す。
ぽつりと佇み、闇を抱える、真実の元へ。



140806

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