安室狂愛

□再会
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大嫌いな「あなた」
どうして私はこんなに必死なんだろう?
二度と会いたくなんて無かったのに
今はただ、漠然と思う。…会いたい、と。









「ただいまー!瑠璃の好きなアイス買ってきたぞ!ついでにコナン君に会ったか…ら…」

瑠璃の家に帰ってきた世良とコナンは、手にぶらさげていたコンビニの袋をぼとりと落とした。

…瑠璃が、いない。
ふたりで家中を探し回ったが、どこにも姿が見当たらない。
ゴミ箱付近に落ちている可愛らしい瓶を見て、思わず息をのんだ。

「瑠璃、まさか…!」

「その瓶になにかあんのか?」

「瑠璃、この瓶を見た瞬間、一瞬だけ瞳を揺らしたんだ…。まさか」

「記憶が…!?」

ばっと部屋を飛び出す。
だが外は酷い雨。どこから探せば良いのか、見当もつかない。

「クッソォ…これじゃぁ…」

「待って、世良の姉ちゃん。見てよ。靴も傘も一つも減ってない。きっと瑠璃姉ちゃんはなにも持たずに飛び出したんだよ。もしくは…誘拐されたか」

「誘拐!?」

「ま、それはないと思うけど…。でも、もし飛び出したんなら、この大雨の中、裸足で傘も差さずに歩いている女の子って言えば必ず目撃者がいるはずだよ」

ふたりはばっと視線を合わせ、小さく頷いてから瑠璃の家を飛び出した。









…寒い…。
降り続く雨が容赦なく体温を奪っていく。
…私…どこに向かってるんだろう…。
はたり、と気が正気に戻ったところで足を止める。
…何してるの、私。靴も履かずに飛び出してきちゃって…。
ずくずくと鈍く頭が痛んだ。視線を足元に下ろすと、水がほんのり赤く染まっていることに気付く。
裸足で歩き回ったのだ。どこかで足の裏を切ったのだろう。
頭、痛い…。
身体は冷たく震えているのに、顔だけが妙に熱く感じる。風邪、ぶりかえしたのかな。目の前が揺らぐ。
ぐにゃりと一際強い眩暈が襲い、気が付けばその場に倒れていた。
濡れていた地面の水が、降り続く雨が身体に沁みる。立たなきゃ、と思うのに力が入らない。
…そうだ、前もこんなことがあった…。
通りかかった人が心配そうに私を呼んでいる。揺さぶられているが、返事をする気力もない。
…あの時も、心配そうに、切なそうに私を呼んでいた。
あの時、の後はどうなったんだっけ?確か…「あなた」も倒れて…。
ずきん、と頭ではなく心臓が痛んだ。
「あなた」を助けなきゃ。「あなた」のところにいかなくちゃ。

よろよろと立ち上がり、足が進む方に身を任せる。
いかなくちゃ。あなたの元へ。
自分がどうしてこんなに一生懸命なのか分からなかった。

『………あ…』

初めて来たはずなのに、見覚えのあるマンションの前で足が止まる。
此処だ。でも…私はどうするつもりなの?
拡散していた意識が自分に戻ってくる。
無我夢中でこの場所へ来た。「あなた」に会うために。…だけど「あなた」って誰?確かに私は「あなた」に何かを伝えたかった。…何を?

『…っあ…あ…っ!?』

急に身体が震え始め、心臓が早く打ち出した。
ぽろぽろと雨に紛れて涙が流れ、口からは声にならない声が溢れだす。

「あなた」が、いる。

マンションから丁度出てきたのか、「あなた」も私を見つめ、動きを止める。
「あなた」は目を大きく見開き私を見ていた。

『…っ…ぁ…安室、さん…っ』

声がようやく音になった時、自分の発した言葉にビリビリと身体じゅうに電流が走ったのが分かった。痛みではなく衝撃が身体をめぐる。かくんと膝の力が抜け、倒れる、と漠然と思ったが、ぎゅ、と安心する匂いに包まれた。












「オジサン!この辺りで裸足で傘も差さずにフラフラと歩いてる女の子見なかったか!?」

「あぁ!あの子は君たちの連れかい!?その女の子ならさっきここで倒れててね…」

「それで!?」

「もう目も虚ろで、正気じゃないと思ったから救急車を呼ぼうと思ったんだけど…急に立ち上がって、大丈夫だから、と呟いてどこかにいってしまったよ」

「どこの方角に行ったか分かるか!?」

「え、えっと…確か、そこの角を右に曲がったんじゃなかったかなぁ…」

「分かった!ありがと、オジサン!」



「…この、あたり、知って…る、か?コナン君」

息も絶え絶えにコナンに尋ねる世良。

「…いや、知らない…っ」

「…前、瑠璃…、この…っ方面から、学校…きて、たんだ…っ」

「まさか…!じゃあ瑠璃姉ちゃんが向かった場所…って!」

「もしかしたら、な…っ」

ふたりは顔を曇らせた。焦りが背中を押すように、足が止まらない。



雨だけが、いつまでも変わらず降り続いていた。



140812

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