安室狂愛
□冬の陽
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『………あれ?』
本当にここまでくるのに色々色々ありました七条瑠璃、幸せな道は一本道かと思えばそんな甘くない訳で…。
『………ない、じゃん』
シャワーの音を片耳で聞き流しながら瑠璃は眉間に皺を寄せた。
彼、もとい安室透が鞄にいつもつけていたはずのストラップが見当たらないのだ。
本体だけ無いんなら落としたのかな、ってなるけど…紐の部分から無いってことは…。
外したってことだよね。
ちらりとシャワーの音がまだ続いていることを確認してからこっそり鞄の中を漁る。
少しだけ…少しだけ見るだけだから…怒らないでね。
それにしても、せっかく真純からもらったお揃いのストラップを外すなんてと心の中で悪態を吐きながら鞄の中を探すがそれらしいものは見当たらない。
…まさか捨てた?
一瞬考えたくないようなことが浮かんでそんな訳無いかと頭を振ってみる。
まぁ別にポケットとかにも入ってるかもしれないし…後で直接聞いた方が早いか。
そう思い直し脱衣所に置いてある透の服を片付けようとする。
シャワーの音と透のいる気配に安心しながら服に手を伸ばした時、シャンプーでもボディソープでも、ましてや私の家の柔軟剤からは程遠いような匂いが鼻腔をくすぐった。
………女物の香水の、匂いだ。
そう、今手に取った透の服から微かにだけど漂ってくる。
……まさか…まさかね…。
誤魔化すように笑顔を浮かべようとしたが、鏡に写ったのは引きつったような自分の笑顔だった。
「お風呂お借りしました」
下着だけ身に着け、暑そうに首から下げたタオルで汗を拭いながら透が脱衣所から出てくる。相変わらず鍛えられた身体は色っぽい。…なんて見とれてる場合じゃなくて。
『ね、透…今、何か探偵の依頼…きてるの?』
先ずは軽いジャブ。いやもうこれはジャブと言っていいのか分からないのだが。
「えぇ、まぁ…さすがに内容は守秘義務があるから教えられないけどね」
キョトンとした顔をしてから苦笑いを浮かべてくる。まぁ内容は流石に無理か…。あぁ、でも…ここまできたら直接聞いてしまった方が早いかもしれない。
『…ストーカーとか色々物騒だもんねぇ…。っていうかさ、探偵ってどんな感じなの?どんな依頼がくるの?』
「うーん…別に…なんでもくるけどやっぱり愛人とかストーカー関係が多いかな。ペットや物探しとかもくるけど…」
『ふーん…ねぇ、今のも愛人関係?』
「どうしたんだい?そんな急に…」
『き、気になるの!探偵の仕事ってどんなのかなぁ、って……って、ちょ!』
不意に背後から回された力強い腕。香る石鹸の匂いに胸がいっぱいになる。
「恥ずかしい?」
『う…ん…』
「今までもっとハードなことしてきてるのに、今更こんなことが恥ずかしいんだ?」
『なっ!それとこれは…ッ!』
喉を鳴らして笑い、ちゅう、と首筋に優しく吸い付かれる。痛くない程度に咬んでくる口に思わずぞくりとする。
「…今回の依頼はね、ある男と付き合ってる彼女からの依頼なんだ。元カノと男がまだ切れてないって疑ってるらしくてね…」
『そ、そうなんだ…ドロドロだね…。って守秘義務は…?』
「うん、だからこれは企業秘密。…ちゃんと口、塞いどかないとね」
そう言いながら唇を奪ってくる。裸の身体が生々しい体温を伝えてくる。
触れてくる指先から始まる情事。恥ずかしい、気持ちいい、…そんなくすぐったいような気持ちに紛れて浮かんだ少しの疑惑。
…誤魔化された?
伏し目がちの瞳を盗み見たが、彼の気持ちを読み取ることはできなかった。
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