ベジカカ 短編
□KISS ME ※★
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「カカロット・・・?」
「ベ、ベジータ?!」
彼は、持っていたカバンを落としたまま、驚きのあまりその場で固まってしまった。
ベジータも扉を開けたまま、目の前に彼が居ることが信じられなくて、同じく固まっていた。
それもそのはず・・・。
ここはラブホテルの一室で、ベジータはコールボーイ(派遣型風俗店)に1人・男を依頼していた。
馴染みのあるベジータは、受付の者に電話越しで慣れたように伝える。
「俺の好みは、知っているだろう。あぁ、今回もそれで頼む。」
『はい、はい、ベジータ様のお好みのタイプは重々承知しております。ちょうどベジータ様の好みにピッタリな新人が入りましたので、その子をそちらに向かわせます。30分ほどお待ちくださいませ。』
(新人か…。まぁここの店は、俺のタイプを熟知しているから。はずれは無いだろう。)
「わかった。」
30分ほど待って、インターホンの音が聞こえたので扉を開けると、そこに以前、同じ職場で働いていたカカロットが目の前に立っていたのだ。
「「・・・・」」
とりあえずカカロットも部屋に入るが、2人の間に沈黙が続く。
「貴様・・・いつからこの仕事をしている?」
「・・・1ケ月前からだ。」
「会社を辞めてすぐだな・・」
「あぁ・・」
先に沈黙を破ったベジータは、室内に設置された小さな冷蔵庫からペットボトルを2本取り出すと、そのうちの1本をベッドの方に座っているカカロットに差し出した。
そのまま彼のそばに座ると、俯くカカロットを眺めながら、ベジータはゆっくり質問を続ける。
「言いたくないなら言わなくていいが、会社を辞めて、なぜこんな仕事をしているんだ?」
「・・・はは、まさかベジータにバレちまうとはなぁ・・。ついてねぇな、おら・・」
独り言のように呟くと、カカロットは俯いたままゆっくりと答えた。
「あのさ・・・おら、大学から仲が良くて親友だと思っていたダチがいたんだけどさ、そいつ実はとんでもねぇワルで、おらの名義でたくさん借金しまくっていたみたいでさ・・・」
背中をフルフルと震わせながら、言葉を少しずつ発していくカカロット。
「・・・おらが気づいた時には、一緒に住んでいた部屋の荷物全部引き払われて、勝手に解約されちまっているし、借金もおら名義になっているから、おらが全部返さなくちゃいけないらしいんだ・・・だから借金取りのヤツにこの仕事を紹介してもらって、前の会社・・辞めて、この仕事をしているんだ・・・」
「そうか・・・」
「ははは・・・おらってほんと、バカだよな・・」
涙目になりながらも、自分を自嘲し、カラ笑いをする。
「住んでいた部屋は勝手に解約されたのだろう?いまはどこに住んでいるんだ?」
「・・・こうやって仕事があった時は、ホテルに泊まれるからシャワーを浴びたり、寝たりしてる・・・仕事が無い時は、野宿したり、昔の友達の家で飯奢ってもらったり、風呂に入らせてもらっているんだ・・・おらの荷物もあいつが全部引き払ったから、何にも残ってなくてさ・・・」
だからか・・会社に勤めていた時より明らかにカカロットはやせ細っていた。
「して、その借金は一体いくらなんだ?」
「・・・2000万らしい。毎日利息が付くから、増える一方なんだ・・」
(ちっ、悪徳だな・・)
しばし考えると、ベジータは急に立ち上がり、掛けてあったコートを着始めた。
「ベジータ? 帰るんか?」
「おい、カカロット、貴様も来い。まずはここを出るぞ。」
そう言ってベジータはカカロットを連れだしたのであった―。