針の城

□零
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(語り:アセルス)
たとえば夏休み。田舎へ行ったりしたとき、夜空を眺めたことがある?
そこには今見えているだけでも数え切れないほどたくさんの星があるはず。
その星ひとつひとつに、私たちの知らない国があって、知らない人たちが住んでる。私たちの世界はそんなところだ。
混沌の宇宙に浮かぶ幾つもの“リージョン”…私が住んでたシュライクもその一つだ。
町外れにある港からシップに乗れば、誰でもシュライクの外へ…別のリージョンへ行ける。
…だけど、ここからは決して行けない、まだ私たちの知らないリージョンも、この世界には存在してるんだ。

〜ドゥヴァン〜
ここはシュライクの港からも行けるリージョンだけど、ちょっと変わったところだ。
町にはいろいろな形の、色とりどりの建物があるけど、ほとんどが占いの店。それもよくわからない変な占いが多い。…まあそれはそれで面白いんだけど、賑やかな町から東の外れへ行くと、山に長い長い階段があって、その上に神社がある。
神社っていうのは古い神様を祀る神殿みたいな物なんだけど、とりあえず私たちは神様に会えることはないから、かわりに巫女さんがいて“おみくじ”っていう占いが書かれた紙を売ってくれる。
「売り切れじゃ」
…でもここのおみくじは、いつ来ても売り切れ。巫女さんも小学生くらいにしか見えない女の子で、それでいてなんだか尊大な態度というか、どこかのお姫さまみたいな雰囲気のある子だった。
『嫌な臭いのする娘じゃな』
…初めて会ったとき、あの娘は私に向かって確かにそう言った。
そして…

白薔薇を失った後、私は何となく神社へ来た。…別に、神頼みで何とかなるなんて思ったわけじゃない。少なくともここへ来れば、あの娘に会えると思ったんだ。
名前は、零。針の城で白薔薇が話してくれた…オルロワージュから逃れるために転生を果たしたという、あの零姫。
『わらわにも責任がある』
そう言って、零姫は私について来てくれることになった。
「そういえば…あのおみくじって、どうしていつも売り切れなの?」
ものすごく人気があるか、単に数が少ないのかな?
「用意していないからに決まっておろう」
「えぇー('A`)」
もともと全然入荷してないのかOTZ
「人の運命が紙切れ一枚で判るものではないと…ぬしは身をもって知ったはずじゃ」
「まあ、そうだけど…」
身もフタもない(ノ∀`)
「‥‥‥」
長い長い階段を下りていく。無駄話でもしていないと、余計長く感じる。
何のために下りて行くんだろう。この先どこへ行けばいいのかな…
…どこへ行ったって、きっと白薔薇はいないのに。
「…え」
小さな手が、私の右手を握る。
「…な、何?」
私の手を握って、じっと見つめる零姫。
「ぼんやりするな。踏み外すぞ」
「あ、ゴメン…」
ただぼんやりしてたわけでもないんだけど…
「謝るくらいなら、最初から手を繋いでくれればよいのじゃ」
ぎゅっと手を握って、前を向く零姫。
「…そうだね」
この娘がそばにいてくれるなら、きっと大丈夫…そんな気がした。

〜オウミ〜
ここの大きな湖には水妖が棲んでる。
「これはどうやって食べるのじゃ?」
湖が見えるレストランで、とりあえず零姫とランチタイム。
「この殻を割って…こうやって中身を取り出すのよ」
ここの名物はエビとかカニとか、魚介類が中心。シュライクでは見たこともない大きなカニは、殻もすごいけど中身もギッシリ詰まってる。
「ふむ…アセルス。わらわのために全部剥いてたも」
「えぇー
零姫は見た目はお子様だから、知らない人から見れば自然かもしれないけどさ(ノ∀`)
「剣や具足を使わずに魔物を吸収するとは…人間もなかなかやるの」
「魔物じゃない…と思いたいw」
妖魔はカニやエビを食べる習慣はないのかな?
「おいしかった?」
「まあまあじゃ」
食事を終えてお店を出たあと、私たちは領主の館へ。
「他人の屋敷に勝手に入って良いのか?」
「もし誰かいたら、そのとき考えよう」
ここの領主とは以前会ったことがある。もちろんその人に用があるわけじゃなくて…
「館の地下に、湖と繋がってるところがあるの」
地下への階段を降りて、扉を開けると…
「!」
薄暗い地下室に踏み込んだところで、いきなり何か大きな物が転がってきた。以前はとっさに避けたけど、
「このっ!」
私だけ避けたら、零姫が狙われる。この娘だけは私が守らなくちゃ!
ジャッカルブレードで敵の突進を受け流し、軌道を逸らした。
(…よし)
敵の攻撃はかわしたけど、簡単には逃げられそうにない。次はどうするか…
「出でよ、夢魔!」
「えっヾ(゚д゚)ノ゛」
零姫が両手を合わせて叫ぶと、馬みたいなのが現れて敵を攻撃した。あれは…幻夢の一撃?
エビやカニのような硬い殻に覆われた魔物は、急に動かなくなった。

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