不幸な彼女が笑う時

□紫色の彼
4ページ/6ページ



そのまま色んな意味でドキドキしながら歩き続けると、斉木先輩の教室が見えてきた。


「あっ、あれが斉木さんの教室っス!」


斉木先輩の教室、知ってたんだけど、親切にしてもらって断れなかった。


「はい!ありがとうございました!」


私が握られた手をそっと離そうとすると、彼も自然と力を緩めた。


けどその直後、またぎゅっとされて何度目かの驚きを隠せなかった。


「?!あ、あのー…」


私が戸惑っていると、そのままぐいぐいと斉木先輩の教室の入口まで私を引っ張っていき、彼は教室の中に向かって叫び始めた。


「斉木さーん!!お客さんスよーっ!!」


彼のよく通る大きな声が教室に響き、皆が振り返る。


(ひぇ…皆見てる…ちょ、ちょ、!)



今までの人生、ひたすら地味に、目立たず、ひっそりと生きてきた私にとってはかなりハードルの高い事だった。



(まだ手、握っててくれてるけど…緊張がすごくて汗かいてるし恥ずかしいし…)


色んな初めてが重なって、私は緊張と恥ずかしさで軽くパニック状態だった。




私がひとりでぐるぐると考えている間に、教室の中のピンク色の頭がこちらに反応して近づいてくるのが分かった。



「斉木さーん!眼鏡なんて大切なもの、落としたら駄目じゃないスかー!」


そう彼が言ったのを合図に、私は斉木先輩に眼鏡を渡した。


「す、すみません、もっと早く私が渡せば…」



(とにかく、早くこの場を離れたい…!!)


頭の中はその事ばかりだった。


斉木先輩は眼鏡を受け取ると、私に向かって軽くお辞儀をした。




「えっと、あの、それじゃあ…!!」




私は遂に耐えきれず、その場を逃げ出した。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ