不幸な彼女が笑う時
□紫色の彼
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斉木side
ーー…例のあの子が今日、今から、僕に眼鏡を渡しに来ることは分かっていた。
しかし、鳥束と現れる事は予想外だった。
僕はもちろん、多少離れている人の行動なんかをよむ事は朝飯前だが、自分がよもうとしなければ分からない。
あの子が今日、眼鏡をもってくる
この情報以外は必要なかった。
「斉木さーん!!お客さんスよーっ!!」
鳥束の声が教室に響きわたり、ふと入口を見ると鳥束と例の子がそこにいた。
…んん?あれ、手繋いでないか?
一瞬いつもの女子に対するセクハラかと思い、成敗してやろうかとも考えたが、…ふむ、どうも今回は特殊らしい。
僕が近づくと更に緊張しているようだった。顔は真っ赤になり俯きながら僕の眼鏡を持っていた。
「斉木さーん!眼鏡なんて大切なもの、落としたら駄目じゃないスかー!」
…なんだかお前今日ムカつくな。
いつもの女子に対する態度とまるで違うぞ。
すると、その子は眼鏡を差し出した。
「す、すみません、もっと早く私が渡せば…」
いや、謝る必要はないんだが。
先ほどからすごくネガティブな声がやはり聞こえてくる。
"私がもっとはやく届ければ…"
"うわぁ、目立ってる…"
"早く戻りたいっ…"
まぁ、余程緊張したのだろう。
僕が軽くお礼の意味を込めたお辞儀をすると、彼女は「えっと、あの、それじゃあ…!!」とだけ言って慌ただしく帰っていった。