不幸な彼女が笑う時
□紫色の彼
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彼女の後ろ姿を軽く目で見送り、何日かぶりに自分の手の中に戻ってきた眼鏡に視線を移し、安堵する。
(…よかった、やはり自分のものがいちばんだな。)
父親の脂っこい眼鏡を外し、自分の眼鏡を掛ける。
(…む、綺麗になってるぞ)
見ただけでは分からなかったが、レンズやフレームが綺麗に拭かれていて視界が鮮明に見える。
(彼女に感謝しないとな…)
清潔にされた眼鏡に少し機嫌が良くなり、席に戻って荷物をまとめようとすると、鳥束に腕を掴まれた。
「ちょちょ、斉木さん!!なんスかあの可愛い子!!」
…僕に聞かれても困るな。
僕だってよく知らない。
「落し物拾って…なんて、何俺の知らないとこでラブコメやってんですか!」
はいはい、お前の花畑脳に付き合っている暇はない。
僕は早く帰りたいんだ。
「ささ、斉木さん!ちょっと話聞いてくださいよー!!」
無理だ。直ちに帰宅する。
その後も鳥束がしつこくつきまとって来たが、校舎を出てしばらく歩き、目立たない角に入ると瞬間移動で家に帰った。
「そんなのずるいっスよ斉木さーん…」
鳥束零太のその呟きは、誰もいない空間に吸い込まれ、小さく消えていった。