小説

□ねぇ
2ページ/2ページ

ねぇ。

松陽先生が死んで、鬼兵隊の首が晒されて。

貴女は変わってしまったのだと思いました。

そう、思い込んでいました。

だけどこうして貴女と対峙すると、ど うしようもなく、思い知らされてしうのです。

例え瞳に狂気を写そうと、例え狂った笑みを貼りつけようと。

俺にはわかってしまいます。



《誰か、止めて。怖いんだ。本当はこんなことしたくないんだ。》



そう、貴女の心は叫んでて、一太刀一太刀、刃を交えるだけで伝わってきま す。

俺は、昔から周りに恵まれました。

温かい《家族》や《友人》が沢山出来ました。

貴女という《恋人》も出来ました。

一緒に人生という先の見えない道を歩 んでくれる《仲間》が出来ました。

だけど貴女の周りには貴女の作った道を後ろから歩く者はいても、

肩を並べ、尻を叩いて。

背中を押してくれる人はいない。

今の貴女は、まさしく孤独。

そんな貴女を見ると、俺は、貴女達に会う前を思い出してしまいます。

戦場で明日死ぬかも知れなくて、頼れる者など居なくて、

ただひとり、何も抱えず生きていた頃を。

あの時、俺には何にもなかったから世界とはそういうものだと思っていました。

だけど、松陽先生に会い、貴女達と触れあい、温かさを知りました。

熱を分けてもらいました。

貴女達だけではなく、他の人にも。

今の俺なら、きっとあの頃に戻っても、おんなじ暮らしなど耐えられない。

だから俺と反対で、でもよく似ている貴女を

今度は俺が温めましょう

あの頃に愛をくれた貴女に

今度は俺が愛を分けましょう

一度、深く俺達の道は交わったのだから。

もう一度、交わることだってきっと出来るはず。










俺が、助けてやるよ。高杉。

てめーのその地獄から。

そしたら、今度こそ…
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ