◆AOT◆Black

□Vollmond
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上空には薄い雲、隙間から疎らに差し込む月の光。山林近くの平原を馬で駆ける彼女の頬を、生温い風が撫でる。地面には、多くの水溜りが見受けられて先程まで降っていた雨の激しさを物語っていた。
そして水溜りを蹴って山林に差し掛かると、その先に広がる光景に軽く目を瞠り、唇を引き結んだ。

折れた低い枝と木々に飛び散る大量の紅。
その幹に、地面に、突き刺さっている幾つもの折れた銀の刃が月光を受けてきらきらと啼くように輝く。
水溜りに浸かっている元々は人の形をしていた破片が薄暗闇でも分かるほどにその水面を紅く染め上げていて。一旦その場に停止すると

「…」

ただただ、耳が痛いほどの静寂だけが彼女を迎え撃った。

手綱を引いて再び馬を走らせる。山林の情景を駆け抜けて木々の隙間から元の平原が姿を現し始める。
終わりが見えてきたその時、刺すような鋭いガスの噴射音が鼓膜を叩いて、視界の端から伸びてきたアンカーが進行方向に沿った前方の木に突き刺さった。ワイヤーを辿って九十度まで振り向いた彼女だったが、その瞬間、すぐ背後に降り立った気配を確信したため途中で視線を正面に戻した。手綱を引いてスピードを上げる。背後から、手負いのためか弱々しくマントを掴まれて、項にこつんと何かが触れた。

「おかえりなさい」

投げかけられた言葉に、彼女の項に額を押し当てたまま、彼は沈黙で応える。

空になったブレードの鞘は片側にヒビが入っており、紅いものがこびりついて汚れている。カートリッジ式のボンベは一方は失くなっておりチューブが垂れ下がっている。残っている方も裂けて歪に変形しており、恐らく先程アンカーを射出したのが最後の一手だったのだろう。

山林を抜けると、夜空を覆っていた薄い雲は晴れ、星達と満月が顔を出して平原を遥か遠くまで照らしていた。

「リヴァイ。ほら、見て、大きな満月…きれいね」

「…ああ…」

靡く髪の隙間から僅かに覗いた青色の瞳に、月光が残酷な程に優しく寄り添う。


end

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