部屋

□天国の地獄
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りんご飴は古紙の味。

フランクフルトは花火の味がするし、暑い暑い夏の夜風は醤油やソース、砂糖の匂いが混ざっていて、お世辞にも心地好いとは云えなかった。
毎夏の祭りに毎年連れ立っている相手と参加して、ひやかして、帰る。そんな今日は、夏休み最終日。

「明日から9月だね。9月って云えば秋のはずだよ?なのに何でこんなに暑いのさ」

隣でぼやく幼馴染みに苦笑を返しながら、ノリで購入した子供向けアニメのお面を頭の横につけ直す。

「本当、温暖化は嘘じゃないと思い知らされるな」

「寝苦しいんだよねえ…早く涼しくなってくれればいいのに」

寒いなら寒いで文句を云うだろう、とふざけながら歩き続ければ、古紙の味がするりんご飴と、花火の味がするフランクフルトで露店が終わり。同時に俺達の夏休みも終わりを告げる。
俺はくるりと隣に並ぶ男に向き合って。

「高校二年の夏休みに隣に並ぶのがお前だなんて、受け入れ難い思い出をありがとうな」

「更に云うなら、明日から隣の席いるのもこの成見 悠だよ、日暮。じゃあ、今夏最後の寝苦しい夜を!」

清々しい程の笑顔を浮かべて去っていく背中に、心の中で中指を立てながらお面を外し、帰途につく。
俺は歩きであいつは自転車。
帰りが同じ方向だとして、わざわざ自転車を押させてまで仲良しこよしで帰る仲じゃない。
それに

「……何が寝苦しい夜を、だ」

生憎こちらは眠たくて眠たくて仕方がないんだ。
朝も昼も夜も、もちろん今も。
ベッドに入れば、同時にかけた曲を一曲も聞き終わらずに寝てしまうし、座って数秒目を瞑るだけでも寝そうになる。だのに眠りは浅くて。ケータイのバイブ音ですら目が覚めてしまうのだから、寝た気にもならない。
こんな事、17年間今まで一度もなかったと云うのに。どちらかと云えば、夜遅くまでケータイをいじって、ネットで友人と話して。気が付いたら日が昇っていた時もある。
それが今では、ほぼ同じ時間に寝てほぼ同じ時間に起きて。
お陰さまですこぶる体調がいい。
ただ一つ。

毎晩、同じ夢さえ見なければ。
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