部屋
□珱領高校 郵便部。
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一人は、口の中で文句を転がしながらも準備運動を始めた。
一人は、飴を噛み砕いて壁のカレンダーを睨みつけた。
一人は、
≪珱領高校 郵便部。≫
放課後の教室の窓際。
グランドの掛け声にも引けを見せない黄色い声が上がる。
「――…で?告白するの?」
興味津々という態の彼女と裏腹に、事の発端はもごもごと呟くように紡ぐ。
「でも、どうやって伝えればいいのか判んなくて…」
逢って言う勇気もないし、でもメールだと冗談だと思われちゃうかも知れないし。
「つまり、困ってるわけだ」
小さく頷くのを一瞥し、なるほどね、と頬杖を付いたまま流し目を送る。
「どうしよう?」
縋るように見つめてくる声を聞きながら、何気なくグランドに視線を移し
「あ」
途端、ガタンと席を立つ。
「いい事思いついた!」
「な、何…?」
唐突の声に戸惑いを隠せない彼女を尻目に窓に手をかけて。
「≪郵便部≫に頼めばいいじゃない!」
これ以上の得策はないと言い放った。
「郵便……部…?」
知らないの、アンタ?
瞠目を兼ねた問いを乗せると小さく頷かれ、大仰に溜め息を吐く。仕方ない、と壁に躰を預けたままグランドに視線を戻して紡ぎ。
「たとえばさ。休みの人のプリントだとか……あ、流石に先生に提出するのは無理だけど。生徒で集めなきゃって書類。あとは郵便なんだから勿論ラブレターも――…とにかく『手紙』ってざっくり括られるものなら何でも、確実に相手に届けてくれる部活。それが≪郵便部≫な訳よ」
先生たちも、結構力借りてるから、部員少ないけど同好会に降格されないらしいよ。
私は絶対入部できないけど。
苦笑気味に紡がれるが、問題はそこではなかった。
「ラブレター……」
このご時世聞くことのなくなった、最早伝説レベルの単語を、オウム返しに呟く。
確かにこの学校は、知られたくない内容は手紙に書くのが主流と決まっている。それは≪郵便部≫のせいであり、おかげだったのかと思考を巡らせていると、いつの間にか席に着いていた彼女に、にんまりとした笑みを浮かべられていて。
「つまりさ。アンタも手紙書いて郵便部のポストに入れておけば、愛しの――」
「わ、わ、言わないでよっ」
慌てて口を塞ぐが、揶揄するような笑みは消えてくれない。
郵便部。
内心で呟き、飽きたのか大人しくなった彼女の口から手を離して。
そっと、グランドへと視線を移した。