部屋

□珱領高校 郵便部。
1ページ/1ページ



一人は、口の中で文句を転がしながらも準備運動を始めた。
一人は、飴を噛み砕いて壁のカレンダーを睨みつけた。
一人は、


≪珱領高校 郵便部。≫





放課後の教室の窓際。
グランドの掛け声にも引けを見せない黄色い声が上がる。

「――…で?告白するの?」

興味津々という態の彼女と裏腹に、事の発端はもごもごと呟くように紡ぐ。

「でも、どうやって伝えればいいのか判んなくて…」

逢って言う勇気もないし、でもメールだと冗談だと思われちゃうかも知れないし。

「つまり、困ってるわけだ」

小さく頷くのを一瞥し、なるほどね、と頬杖を付いたまま流し目を送る。

「どうしよう?」

縋るように見つめてくる声を聞きながら、何気なくグランドに視線を移し

「あ」

途端、ガタンと席を立つ。

「いい事思いついた!」

「な、何…?」

唐突の声に戸惑いを隠せない彼女を尻目に窓に手をかけて。

「≪郵便部≫に頼めばいいじゃない!」

これ以上の得策はないと言い放った。

「郵便……部…?」

知らないの、アンタ?
瞠目を兼ねた問いを乗せると小さく頷かれ、大仰に溜め息を吐く。仕方ない、と壁に躰を預けたままグランドに視線を戻して紡ぎ。

「たとえばさ。休みの人のプリントだとか……あ、流石に先生に提出するのは無理だけど。生徒で集めなきゃって書類。あとは郵便なんだから勿論ラブレターも――…とにかく『手紙』ってざっくり括られるものなら何でも、確実に相手に届けてくれる部活。それが≪郵便部≫な訳よ」

先生たちも、結構力借りてるから、部員少ないけど同好会に降格されないらしいよ。
私は絶対入部できないけど。

苦笑気味に紡がれるが、問題はそこではなかった。

「ラブレター……」

このご時世聞くことのなくなった、最早伝説レベルの単語を、オウム返しに呟く。
確かにこの学校は、知られたくない内容は手紙に書くのが主流と決まっている。それは≪郵便部≫のせいであり、おかげだったのかと思考を巡らせていると、いつの間にか席に着いていた彼女に、にんまりとした笑みを浮かべられていて。

「つまりさ。アンタも手紙書いて郵便部のポストに入れておけば、愛しの――」

「わ、わ、言わないでよっ」

慌てて口を塞ぐが、揶揄するような笑みは消えてくれない。



郵便部。



内心で呟き、飽きたのか大人しくなった彼女の口から手を離して。

そっと、グランドへと視線を移した。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ