片想い

□あなたに好きと言われたい
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3週間後にコンビニのアルバイトを辞め、直ぐに探偵社の事務員になった。

あれから2ヶ月経ち、今日は年に一度のクリスマスである。

僕の太宰さんへの愛は言わずと知れず、探偵社の中でもとても有名になった。
太宰さんを見つけるたびに愛を囁く自分はコンビニの時とは逆の立場になっていて、思い出すたびに少し笑ってしまう。

僕は2つ理由をつくり、女装を始めた。
一つ目は、乱歩さんと兄弟だという風に見られるのは矢張り風当たりが強いように感じて辛いからである。
兄と弟の才能を見比べられるのがどうしても怖かった。
それを思い切って話すと驚くところ乱歩さんからも女装を勧められ、「絶対可愛いよ」と寧ろ応援までされたのだ。
「ま、太宰に渡すつもりはないけど」と添えていたが。
女装を始めて暫くして気付いたのだが、乱歩さんの持ち前の頭の良さは表上【超推理】という異能力として知られていて、別に自分自身の頭が劣っていても「乱歩さんは特別な異能保持者だから仕方がない」と言われて片付いていたのだ。
実際では乱歩さんはただ頭がいいだけなのだけれど……。
それに気付くのが遅かったせいか、今では仲のいい兄妹≠ニして有名になっていた。

二つ目は当然の如く太宰さんの理想に少しでも近づくためである。
何分、どんなに女性の格好をしても身体は男のままなので、目的は太宰さんの心を射止めること。
男だということは太宰さんも重々承知だろうが、男という意識も超えて愛してもらえる、そんな存在になりたいと思い、今に至った。

国木田さん達には「太宰は女癖が悪い、やめておけ」と何度も何度も言い聞かせられるのだが一度芽生えたこの気持ちは抑えられない。
なんとしてでも手にするべく、あれやこれやと必死になった。


元々髪は肩より少し下位に長かったので前髪を右寄りに流してバレッタで留めた。
スカートのスーツに黒タイツ、高校の時に使っていたローファーとカーディガンを羽織った。
お化粧も雑誌や斉藤さんの指導の元、それなりに出来るようになったのではないかと自分は思っている。
拘っている事といえば、ピンク色のリップグロスだろうか。
斉藤さん曰く、キスをしたくなる唇が演出できるのだそう。
詰まるところ、「太宰さん、いつでもキスしていいんだよ」とアピールしている心算なのである。

以前街で、女子高生がチャラそうなお兄さんに「そんなスカート短くして、誘ってるんでしょ?」等と話しかけられていたのを見かけたことがある。

その一連の会話で学び、「太宰さん、何時でも襲ってくれていいんだよ」というアピールとしてスカートの丈はその時の女子校生たちを見習って膝丈より少し上のを選んだ。


「乱歩さんの妹は仕事ができる上にとても可愛いのに太宰が好きなんて、本当に残念だ。
太宰が羨ましい。」
なんて言葉もちらほら耳にするようになったあたり、今の格好は外れではないのだろうと内心ガッツポーズをした。

それでも今日は何時もよりも気合を入れて来た。
今日はなんといってもクリスマス。
なんとしても太宰さんの隣だけは勝ち取りたかったのだ。


夕日が差し込む定時5分前。
今日も今日とてまとめた書類を整頓して国木田さんに渡し、「ご苦労」と言われると、直ぐに太宰さんに飛びついた。

「太宰さん、今日こそデートしませんか?」
右腕に付き纏い、デレデレとするその姿は最早恒例で、与謝野さんの「おやおや、ご執心だねぇ」という声と国木田さんの「イチャつくなら他所でやれ」という声が聞こえる。


「何、国木田君羨ましいの?」

「そのような軽薄な愛情表現など羨ましくもなんともない」

「軽薄だって、名無しさんちゃん?」

内心では酷く傷ついているのだが、自分でも軽薄だとは思っていたので仕方がないと心の内で片付ける。
そんなことより


「デート、デートしたいです!太宰さんとデート〜!」
甘え縋るように先日雑誌で学んだ男を落とす必殺技!≠ニ題された上目遣いを試してみる。

「ふむ、何処に行きたいのかな?」

効果はあったのかなかったのか。
いつもは「またいつかね」や「一緒に帰る事もデートだよ」等と言い包められ、望むデートは出来ず仕舞いだったのだが、反応が違う。


「……!夜景デート!あの時できなかったでしょ?ね?」
あまりの嬉しさに少し早口になるそれに「わかった、行こうか」と頭に手を置いて「帰る準備をしよう」と笑いかけてくれた。



「やったぁ!」
その場で思いっきりガッツポーズをすると周りから拍手が起きた。

「クリスマスデートかい?よかったねぇ、しっかり太宰を振り回してくるんだよ」
「名無しさんさんの念願のデートですのね……!記念撮影は忘れないようにしますのよ?」
「仕方ないなぁ〜。夜ご飯は自分で何とかするから楽しんでおいで」

各自好きなことを言ってお祝いをする始末に「どういう扱いなの、これは」と太宰さんは苦笑いしていた。
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