片想い
□vivi
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進路もなにも考えず、高校を卒業し、のらりくらりと始めたフリーター生活。
ほんの2、3ヶ月前になんとなく社会勉強と始めたアルバイトは今では日課となり常連客とは友達のように親しくなり、人生を謳歌しているところである。
ひょっとしたら、普通に正社員になるよりもはるかに楽しい生活なのかもしれない!
そんな風に勘違いしてしまいそうな毎日を過ごしていた。
AM10:50
客足が減る時間帯。
そろそろだろう。
「おはよう、名無しさんちゃん!」
黒髪の優しそうな男性はこのお店にいつもの時間に来る常連のお客様。
「おはようございます、太宰さん」
「なんと朝露のように可憐な瞳だろうか!小鳥のさえずりのように愛らしい声。一寸、私と心中しては呉れまいか!」
レジに走り寄ってきては僕の両手を掴みキラキラとした瞳で見つめてくる。
「……手が冷たいですね、今日は寒いですからね〜ホットコーヒーなんていかがでしょう?」
「ふむ……それで頼むよ」
黄土色のコートにポケットを突っ込むと財布を取り出した
「ありがとうございます、百円です!」
これはもはや恒例行事である。
今日の仕事のパートナーである斉藤さんはというと商品の整理をするふりをしながらこちらを苦笑いで見守っている。
カウンターにちゃりん、とお金を置くとそのまま手をこちらの顔の方に伸ばしてくるのが見え、それを後ろに下がり回避する。
「コーヒー、準備しますのでこちらで少しお待ちください!」
いつものようにコーヒー受け渡しカウンターへ誘導する。
「お待たせしました、ホットコーヒーです!」
御盆に乗せたコーヒーを突き出すように渡した。
「今晩、暇かい?」
爽やかな笑顔で太宰さんは僕の頬に手を伸ばしてくる。
「今晩は少し用事が」
苦笑いで返す
「嗚呼、ならば」
いつもならここで引き下がり、また明日と言いながら手を振りと去っていくのだが。
いつもと違う成り行きに若干の不安を感じ首を傾げる。
「私の連絡先だ。よかったら」
白い紙をお盆の上に乗せるとひらひらと手を振り、去っていった。
「?!?!?!」
11:00ちょっと過ぎ。
太宰さんが帰ることで、お客はいなくなったこの店内ではただ、斉藤さんの
「うそ?!これって本気の誘いだよねぇ?!これは?!凄い?!」
などという黄色い声だけが響いていた。