片想い

□千の夜をこえて
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4階建ての上の階の方へと目指してエレベーターに乗り込む。
チン、と到着した合図が鳴るとまた手を引かれ、先程から先導していたメガネの人が振り向くと太宰さんは手を解き、『どうぞ』と僕に先を促した。

いつもの癖のように胸の前で手を組み、一歩足を踏み出した。
「お、お邪魔します」

後ろを振り返ると入ってくる太宰さんと目があった。
「武装探偵社へ、ようこそ」
にこりと微笑むと肩に腕が回ってきてそのままソファーへと誘導される。
ギシりと音を立てて座った太宰さんに「まぁ座り給え」と言われ少し辺りを見回してから隣へと腰を下ろすとクスリと隣から笑う声が聞こえた。

「そんなに警戒しなくても、マフィアのような手荒な真似はしないさ。少し話を聞かせてもらいたくってね。どうして、名無しさんちゃんがマフィアに狙われているか。」

優しげな口調とは裏腹に目つきは鋭く感じた。

そういえば、僕は何も知らないのだ。
なぜ僕がマフィアに狙われていたのか。
あるとしたらやはり、目があった時に逃げ出してしまったからだろうか。
獣は逃げられると追いたくなるという。
否、それでは何故僕の名前を彼は知っていたんだろうか。
そういえば、マフィアは第一声に「仕事は終わったか」と聞いてきたのだ。
仕事が終わるのを待っていた……?
だとするとマフィアは僕があのコンビニで働いているのを知っている上で待ち伏せしていたんだ。
何かそれなりの理由があって。

ふと、目の前に白い湯気がふわりと浮かぶ白いコップを前のテーブルにコトリと音を立て置かれた。
視線を上げると先ほどのメガネをかけた人が立っていた。
「暖かいコーヒーだ。外は寒かったからな。」
お世辞にも優しそうとは言えない笑顔で言われ、「あ、ありがとうございます」とぎこちなく返すと前方に見えるソファーに腰をかけた。


「……僕借金をした覚えもマフィアに恨みを買うようなことした覚えも何もないんです」

今はただ、ハッキリとしている事実だけを伝えておこう。
変に話して誤解されてはひとたまりもない。
元々そんなに僕はお喋りではないし、どちらかというと高校の時は一言も喋らずに帰るような事だってあるくらいなのだ。


「ふむ……、やはり名無しさんちゃんがマフィアに狙われる理由は私にあるようだ」

自信満々のドヤ顔で言ってみせるその顔をジト目で見返す。
いや一寸待て。
一体太宰さんはマフィアに何をしたんだ。
唯の一概のコンビニ店員が巻き込まれるほどのことをしたということなのは当然だろう。

「って他の店員たちは大丈夫なんですか?!」

太宰さんと顔を合わす店員となれば朝の時間帯に出勤している人たちはみんな当て嵌る。
今日なんかは斉藤さんとパートナーだったのだ。
斉藤さんの身になにが起きてもおかしくない。


「厭、マフィアが狙うのは恐らく名無しさんちゃんだけだよ。」
キッパリと言い切ったその言い草に不安を感じる。
「恐らく、名無しさんちゃんが私のお気に入りだから人質にでもしようと考えていたのだろう。」

なんて物騒な世の中なんだ。
お気に入りにされただけで人質になってしまうなんて。
もう生きていく自信さえ無くなってきていた。

「お気に入りだなんて、太宰さんは店員にはみんな同じように話していたのに、どうして僕だけ」
「連絡先を渡しただろう?あれに目をつけたんだろうね。それに極力名無しさんちゃんのレジに入れるようにと気をつけていたんだ。毎日のように通っていたからマフィアに目をつけられ監視されていてというのもおかしくない。」

否、何処に気を配ってるんだよとツッコミたくなったが、納得できた気がする。

メガネの人の盛大なため息とあの困り果てた表情はきっと、これから先ずっと忘れることはないだろう。
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