デスノート

□完敗
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黒くて丸い瞳を覗き込む

肌は白くて、ぷっくりとしたほっぺが特徴の彼は、じっと私のことを見つめ返す

床に堂々と座ってこちらを見つめる、小さな彼は、まぎれもない彼女の子供


「…」

「…」


無言の攻防戦の末
小さい君は飽きたのか、近くに落ちていた積み木のひとつをぺしぺしと叩きはじめる

一体何を考えているのだろう

私には一ミリも理解できない


「積み木なんて叩いて、何がおもしろいのか…理解しかねます」

「ぶー」

「…」


グッと、一つの積み木をつかむ小さな小さな彼

そして今度は、それを床にガンガンと打ち付ける

もっとも、まだまだ力が弱いせいか、コンコンと言う可愛い音しかしないのだが…


「やめてください、床が傷つく」

「あー…う?」

「ダメだと、言っているんです」


彼の手から、積み木を奪い取る

泣き出すかもしれないな
と、そんなことを思ったのだが…
意外なことにも彼は泣き出すどころか満面の笑みを浮かべて、きゃっきゃと笑う


小さな手が、私に向かって伸ばされる

ああ、なんて小さな手なのだろう


「いいですか?これは本来、積み上げて遊ぶものです」

「うー?」

「こうして、積むんです」


私は、適当に三つの積み木を重ねる

それを見た彼は、積み上げられたそれをじっと見つめた



その、真ん丸な目は本当に彼女の目にそっくりだ

透き通った目と、小さな鼻なんか
彼女のものとそう変わりない

遺伝とは恐ろしいものだ


「うー」

「分かりましたか?」


聴いているのかいないのか
彼はじーっと積み木を眺めている

すると…


「だぁ!」


彼は、積み木に小さな手でアタックをした

おかげで積み木は音を立てて崩れた





もし彼女がこの場にいたなら、今の音にも反応して、慌てて飛び出てくるだろう



そう、彼は彼女に愛されているのだ





こんなに小さくて、か弱くて、無知でいる彼は…彼女に愛されている



そう、私の愛している彼女が、世界で一番愛情を注ぐ人は、今目の前にいる彼なのだ


私はもう一度、積み木を一つづつ
丁寧に、積み上げる


「…いいですか?君は私の世界最大の天敵です」

「あー」

「私がこの世で一番愛した人から生まれてきた貴方は、世界で一番幸せな人です」

「あー…あ!」

「貴女の母親は、愛情深くて美しい。その人を、貴方はこの世界で一番独り占めにできるのですから…」

「ば…あ!」


積み木を積みあげ、彼を見下ろす


一生懸命、コチラに手を伸ばす彼



あぁ…本当に…



「ば…ぅあ」

「ばぅあ、じゃありません」

「ば!」


その小さな体を、座ったまま高々と持ち上げると、彼は嬉しそうに笑った





彼は、この世界で最大のライバルだ



この世で一番大好きな人の愛を、一番たくさんもらえる君




そんな君が、どうしようもなく羨ましくて…




「ぱーぅあ!」

「…おしいですね。もう一息です」





そんな君が





どうしようもなく、愛しい





”完敗”




この勝負

はじめから私の完敗です


「ぱ…ぱぁぱ!」

「っ!!」

「ぱぅあ!!」

「…まぁ、良しとしましょう。まぐれだとしても、進歩しましたね」



END
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