変態さんと僕
□ななっ!
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どーも。前回では涙を見せたいずみん先輩により、色々恥ずかしいことを言ってしまいました···
どうしよう···目の前には先輩の規則正しく動く胸。
僕の体に巻き付く腕。
ああ、病人でなければ思いっきり殴ってやったのに。
これは変態いずみん先輩と僕の、日常的非日常を綴った物語である。
ななっ!
目が覚めてすぐ感じた暖かみ。それは僕とともにいるとき、何故か滅多に生身にならないいずみん先輩のぬくもりだった。
ぐっと自分の首を持ち上げてみるとチラリと見えた窓。外は夕焼けなのか橙色に染まりきっている。
「くー····すー····」
『···ちょっとかわいい』
先輩はぐっすりなようで、何時もの変態行動も、さっきのように涙を見せることもなくゆっくりと呼吸をしている。
何気に初めて見る寝顔はなんというか···グッとくるものがあった。
薄く開いた唇。緩やかに上下する胸。安心したように閉じられた瞼。
初めて見るその姿はいつもの『妖艶』ではなく、『愛らしい』ものだった。
『ほっぺた、触っていいかな···』
愛らしい寝顔を見ていると無性に触りたくなる。なんだこの感じは。
ゆっくり、先輩を起こさないように手を伸ばす。
あと少し、あと__
「ん、んー···」
『っ···』
突然身動ぎした先輩に、起こしたのかと一瞬ドキリとしたけれどそれは杞憂に終わった。
再び規則正しい寝息をたてはじめたいずみん先輩。よほど疲れていたのだろうか、会ったときの隈は薄くなったものの、未だに少し痕がある。
『結局、なんで···』
なんで、いずみん先輩の体調が悪くなったんだろう···
話は明日聞きます、って言っちゃったしなー。でも気になる。
···それ以前にお風呂に入りたい。さすがに先輩の前で汗臭いまま寝たくないし。
まだ夕方だけどお風呂は入っても良いよねー。
ここから抜けられたらだけど。
『むー、せーんぱーい···?』
「すー····」
小声で呼び掛けても反応なし。これはダメだな、自力でいずみん先輩ワールドから抜け出さねば。
『う、むむむ····ふぃー···!』
先輩、僕はお風呂に入りたいんです···!はーなーしーてー!!
「···みお····」
『!せんぱ···!?』
起きたヒャッホイ!とか思っていたのは僅か数秒。
名前を呟かれてすぐに、またもやぎゅうぎゅうと抱き締められた。
「うるさいから、ちょっと静かにしろ···襲うぞ···」
『な、な····!!じゃなくて!!』
僕の訴えを少し聞いてやろうと思ったのか薄く目を開けた先輩。
···あり?なんか今日の先輩は可愛く見えるぞ?
「なんだよ」
『···僕、お風呂入りたいんですけど···』
「んなの明日でいいだろ···」
『汗かいてるからいやです』
「···仮に入るとしても、着替えは?」
『家から取ってきます。』
「却下。」
『なんで!?』
少しの間続けた押し問答は先輩の一刀両断によって途切れてしまう。
家に戻ると言った瞬間、抱きしめていた腕を更にキツくしてきやがった···!!
痛いよ?ちょっと痛いからね!?
そんな私の思いが伝わったのか、はたまたもぞもぞしていたからか、ゆっくりといずみん先輩が離れていく。かと思えば今度は首筋に顔を埋めてきた。
「···おれは別に、みおなら汗だくでも良いし。むしろバッチこい···それに···」
『···それに?』
一度言葉を区切った先輩は、まるで何かに怯えるかのように首筋にすりよってくる。
「···戻って来なかったらいやだろ」
『························ぷっ』
「何笑ってんだよ」
『いや、ぷふっ、先輩も、くふっ、可愛いなって···!』
「笑い過ぎだバカ」
可愛すぎる···変態はどこへいった!?
い、いや、いつまた変態に戻るか分からない。今のうちに堪能しておこう···!
『帰ってきますから、大丈夫ですよ?それとも信用出来ませんか?』
「···」
『お風呂に入りたいだけですから。着替え取ってくるだけです。』
「···本当か?」
『ほんとです。』
少し思案しているような空気が流れたが、やがて先輩が深いため息をついた。
「···約束しろ、すぐに帰ってくるって。」
『はい。トリガー使っていきます。』
「ならいい。···行ってこい。」
『!!はい!』
先輩から離れ、ベッドから降りる。久しぶり、地面。
カバンにいれておいたトリガーを早急に探しだし、起動する。
後ろからジトーという効果音がつきそうな視線が突き刺されている。ザクザクいってます。
『先輩、冷蔵庫の中身は?』
「?結構たくさんある」
『分かりました。じゃあ、いってきます』
「おう···ふぁ····」
先輩が再び瞼を閉じたことを確認して、部屋を出た。
変態じゃない先輩って、可愛いんだなぁ···
ななっ!おわり