夢と記憶と伝承と。
□二個目
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赤司くんには申し訳ないけど、狭いクローゼットの中に二人で入る。
狭いといってもそれなりのサイズはあったのだけれど、結構勢いよく入ったせいで態勢が大変なことになってしまった。
まるで私が迫っているかの様に四つん這いで赤司くんに覆い被さり、彼はその下敷きになっている。
····緊急事態だから、しょうがないよね。
もし、廊下から聞こえてくる音が普通の人間であったとしても、危ないことに変わりはない。
だってここは知らない場所。普通の人間が相手だとしても誘拐犯、なんてことがあり得る。
そしてゲーマーとしての経験上···来るのは異形のモノだ。
だんだんコツ、コツ、という音が近付いてきている。
未だに私の下で訝しげな顔をしている彼に一応説明しておこうか。
耳元にそっと唇を寄せ、囁く様に現状を説明する。
『赤司くん、今が危ない状況なのは分かるよね?』
「····あぁ。」
『ホラーゲームってやったことある?』
「一応、見たことは····」
『おっけー。で、今は恐らく二つのパターンであぶない。』
二人で囁く様に喋り続けるけど、ちょこちょこ耳に掛かる吐息に顔が熱くなりそうだった。
「···誘拐犯か、”そういう”ものか?」
『うん。····そしてさっき、廊下から歩いてくる音が聞こえたの。』
「····つまり、」
『···死ぬか否かの状況なんだよ。』
赤司くんが息を飲む。テツヤから聞いた限りでは彼は聡明な少年。
でも、ただの高校生でもある。死ぬのは怖いだろう。
対照的に私は酷く落ち着いていた。ホラーゲームに慣れているか、彼という存在が心の支えになっているか。
どちらにせよ今の私はきっと、何時もより役に立つ。
少し赤みが引いた赤司くんの頭を抱えるように、そっと抱き締めた。
落ち着かせるためと、
______外界の音をシャットアウトさせるため。
かなり足音が近付いていることを感じながら、最後に腕の力を緩め、彼の瞳を見つめながら····
少しだけ、微笑んだ。
ガチャリ、扉が開く。
彼の頭を再び抱き寄せ、覚悟を決めたとき。
___「さぁ、ここからが始まりだ。」
何処かから、そんな声が聞こえた気がした。