夢と記憶と伝承と。
□三個目
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ガチャリと開かれた扉。
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それと同時に聞こえてきた音。いや、声。
笑い声の様にも聞こえるそれは、酷く不快でイビツだった。
「ヒヒヒ、イヒヒヒ」
何がそんなに可笑しいんだ、ってくらい笑っている声は恐らく女だ。幸か不幸か向こうの姿が見えていないので確認のしようがないけれど。
外のソイツは特に家具に触れている様子はない。つまりここに近づく可能性も限りなく低い。
でも楽観視してはいけないんだ。私たちの居場所にははじめから気づいていて、あえて焦らしているだけって可能性もある。
「イヒッ、アハァ」
考え込んでいるうちにソイツはクローゼットに近付いてきていた。
バクバクと心臓が、躯が私に訴えかける。危険だ、いますぐここから離れなければ、と。
でもどうすればいい?この状況で逃げ場なんてない。どうしよう、どうすれば______
いよいよ考えることを放棄しようとしたとき、ふと背中に腕が回る。
現状を理解するのでいっぱいいっぱいだった私に、まるで大丈夫だと言ってくれているような腕。
彼という存在が身に沁みるように響きわたった。
___今ここにいるのは私だけじゃない。彼を、彼だけでも助けなければ。
トク、トクやっといつも通りに動き出した心臓に安堵しながら、外のやつに意識をやった。
「アれぇ?いナァいのォ?ゴハん、にげちゃッタァ?」
ゾワリ、明確な殺気に鳥肌が立つ。
ご飯、と形容したのは多分····私たち。
逃げちゃった?、っていうことは私たちがここにいることはバレていないはず。
「ショォがないなァ、きゃくじンクラいもてなしナサイヨォ」
ソイツは意志があるのか、操られているのか。それと客人ってなんだろう···?外にいるソイツのこと?それとも私たち?
情報が少なすぎる。ピースが圧倒的に足りない。
再びなったガチャリという扉の音。その音に、今度は安堵した。
『····行ったね。』
「あぁ。大丈夫かい?」
アイツがまだ近くにいたら困るとクローゼットの中で会話を続ける私たち。
『?うん。バレてはいないと思うけど···』
私がそう答えると、彼は眉間にシワを寄せた。
「····俺が聞いているのはそういう事じゃない。桐ケ谷が、だ。」
『え、』
「君は俺の心配はしていたが、君自身の事については無関心とも言えるからね。ヤツは近付いてきたのかな?酷く震えていたよ?」
···あぁ、彼を守るために頭は冷静でも、躯は正直だったようだ。
背中に腕が回ったとき、てっきり心臓の音が酷かったのかと思ってたけど違ったんだね。あれは、私の震えを取り除こうとしてくれていたのか。
でも、彼にアイツの声を聞かせなくてよかった。上手くシャットアウトできていたらしく、赤司くんは外の状況は全く分かっていなかった。
いくら聡明な彼でもさすがにこの状況であの声を聞けば···混乱どころが気が狂ってしまったかもしれない。
ホラゲーやりつくしておいてよかったー···
『ありがとう、心配してくれて。でも私は大丈夫、必ず赤司くんを守ってみせるよ!』
「頼もしい限りだね。···でもそれは男の仕事だよ。君は俺に知恵を貸し、守られてくれればいいんだ。」
私が、彼に···
『知恵を、貸す···』
「ああ。桐ケ谷がゲームで培ってきた知識はこの先必ず、役に立つ。」
ふっと微笑んだ赤司くんに思わず見惚れてしまう。試合の時と違う、柔和な表情。彼のカリスマ性を誇示するかの様なその笑みは、言葉で表せないほど格好良かった。
「だから···辛くてたまらない時は俺も、僕も頼ってくれ。」
『へ?あ···』
「さぁ、もういないだろう。そろそろ出ようか。」
赤司くんが僕って言ったとき、確かに左目が金に光った。多分WCのときと同じ色に。
その事を聞こうと口を開けば間抜けな声。謀ったように被せてきた声にやっと今の状況を思い出す。
『ご、ごめんなさい···!!』
「ふふっ···随分初々しい反応をするんだね。ほら、足元に気をつけて。」
クローゼットの中で密着したまま会話をしていたことを忘れていた。ああ、申し訳ない···!!
っていうか赤司くんオーラが···色気なのか···!?
くだらないことを考えながら、クローゼットの外に踏み出した。