夢と記憶と伝承と。

□五個目
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『散策っていっても広いからなぁ···』

「ざっと調べるだけにするか?」


そうしたいのはやまやまなんですけど···大抵最初にいる部屋には何かあるんだよなぁ。ってかこの部屋なんか変っていうか、違和感がある。ま、いいか。


むー、散策は分担するべきか?いや、もしこの部屋にさっき入ってきた類いの化け物が潜んでいたら対処のしようが無くなってしまう。それはなんとしても避けたいから···


『時間はかかるけど、二人で少しずつきっちり調べよう。必ず何かあるはずだから。』


良いことか悪いことかは分からないけね。


「ああ。じゃあ何処から調べようか?」

『んー···』


部屋にあるものはそんなに多くない。私達がさっき入っていたクローゼット、豪華なベッド、シンプルなテーブルと椅子、美しい化粧台、ソファー、そして隅にあるこちらもどデカイ本棚。

見る限りでは完全に洋館の作り。詳しくは外に出てみないと分からないけど。

っと、何処から調べようか考えてたんだった。

んー、まず本棚は一番最後として···よし、


『ベッドとかクローゼットの方からいこう。』

「····」

『?どうしたの?』

「···いや、何でもない。」


赤司くんが何か考え込んでいた。彼の琴線に掛かるような出来事でもあったのだろうか?それとも···

···余計なことは考えないで探そう。もしかしたらここの情報が手に入るかもしれないんだから。

それが分かればきっと、動きやすくなる。今必要なのは情報と仲間だ。

仲間に限ってはいない方がいいけどね。こんな空間にいたら、いつ精神が崩壊するか分からない。


「ベッドは···」

『·····ん?これなんだろう?』


布団を捲るとそこには、懐中時計のようなものがあった。


『懐中時計って···うわぁ、どっちかと言うと懐中タイマーでしょ』

「これは···見たことがないな。」


カチリと開いたとき中に見えたのは時計ではなく、ストップウォッチのようなデジタル盤だった。

これは非常に便利な展開ではないだろうか。こういう空間は大抵、携帯電話があっても時計が狂っていたり、動かなかったりと···とにかく『時間』という概念を感じさせるようなことは絶対にない。

だけどこのストップウォッチ···懐中時計はどうやら正常に作動している様なので、使わせて貰おう。


『他は何かある?』


パチンと音をたてて懐中時計をしめて問うけど、赤司くんは首を振った。


「次は···クローゼットか。」

『何かあるといいんだけど···』

「ふふっ、そんな弱気でどうするんだい?」


にこやかに告げる赤司くん。

だけど、彼からも『安心』とともに真逆の『不安』という感情が伝わってくる。

いくら聡明であろうとも怖いものは怖い。これを常に頭に入れておこう。



そうしないと弱い自分はきっと、彼に頼ってしまうから。


刹那、背筋に走る悪寒。









______赤司くんが引いたクローゼットの取手が何故だかとても、禍々しく感じた____









気のせいだろうか。特に反応せずに漁りだした赤司くんを見てそう考える。

アイツみたいなピリッとした殺気って感じじゃなくて···こう、どろっとした悪意みたいななにか。

直感的に感じる。このクローゼットは重要ななにかだ。




まぁ、今はおそらく序盤···きっとまだいらない。


「さっきは急いでいて気付かなかったけど···服がたくさんあるな···」

『うわ、高そう』

「着てみたらどうだ?桐ケ谷なら似合うと思うが」

『いや、馬子にも衣装状態になるよ···』


そう言うと少し残念そうな顔になった赤司くんだったけれど、ハッとしたようにまたクローゼットの中を探し始めた。


『(何かあったのかな···?)』

「服以外は···」


ゴソゴソと中を探っている彼。こうやって見るとやはり大きい。テツヤの話では確か身長を気にしていた、はず。

これで気にしてるって贅沢な悩みだなぁ····あの身長でも充分、


「ない、みたいだね。···桐ケ谷?」

『へ、あ、無いなら次に行こう!』

「?ああ。」

『つ、次は···あっち!』


そう言って私が指差したのはシンプルなテーブルと椅子、美しい化粧台、ソファーがある方だった。

動揺を悟られないよう果断したけど、順番通り進めているから良しとする。


『(私は今何を···!)』

「桐ケ谷···?本当に大丈夫か?体調が悪いならソファーで休んでいても、」

『だ、大丈夫。ちょっと考え事をしてただけ。』

「···まったく、無理はするなよ。」

『うん。ありがと』


心配そうな目を向けられたけどあえて気付かない振りをする。いや、本当に違うんですよ、うん。


『て、テーブルはなにか乗ってませんか?』


赤司くんは一瞬訝し気な顔をしたあと、自分の近くにあったテーブルに目を預けた。


「鍵と···紙?」


それ、明らかに大事な物ですよね?

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