夢と記憶と伝承と。

□六個目
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「鍵と···紙?」


テーブルに向けられた視線。そこには明らかに重要であろう三本の鍵と、A4サイズの紙があった。


『鍵は、なんだこれ?』

「一つだけ違うな···」


そう。三本の鍵は似た作りなのかと思ったけど、一つだけそれ以外とは違う大きさで、違う装飾が施されていた。


「部屋の鍵、って大きさではないな。他の二つはどうだ?」

『こっちは完全に部屋の鍵だね。作りも似てるし···』


三本のうち二本が部屋の鍵だとして···残りのこの鍵は、一体···


「考えても埒があかないか。」

『···紙を、見てみよう。』


折り畳まれることなく置かれている紙。裏に何か書いてあってほしいな。


『···これは、』

「地図···?」


裏返したそこに書かれていたのは、おおよそ地図と呼べるか怪しい図だった。


「桐ケ谷、これは地図だと思うか?」

『···地図、だけど現時点で全く必要性を感じない。でも、この中心の扉···』

「何か、ありそうか?」

『うん。これだけ大きく書かれてる。重要だから大きく書かれているのか、それとも···』



実際に、それだけ大きいのか。

この地図はかなり輪郭がボヤけているように見える。ボヤけてる、っていうより···ガタガタ?

洋館の四角さとは真逆の丸みを帯びた形。これはないでしょ···小学生が描いたみたいな地図だね。


『とりあえず、持っておこうか。』

「ああ。」

『じゃあ、次は化粧台だね。』


けして派手ではないけれど、綺麗な塗装装飾が施されたそれに近づいていく。近づけば近づくほどその装飾の細かさが見てとれる。

化粧台にはたったひとつだけ、ビンのようなものが置いてあった。


『香水、とかかな···?』

「出してみるか?」

『···』


危なくないかな?これがどんなものか分からないから毒かどうかも判別出来ないし···

おまけに獣避けの鈴みたいに敵とのエンカウント率が下がるものならいいけど、逆に獣寄せの鈴みたいに敵とのエンカウント率が上がるものなら無闇につけるべきではないし···

そもそもこれ、香水なのかな?桃色の液体が入ってるけど、鼻の近くまで持っていっても匂わないし。

ほら、香水って蓋してても結構匂うでしょ?あれが全くないんだよね。

やっぱりなんか別の役割があるのかな···まあ、今は放置かなぁ···


『んーん、出さないでおこう。もしかしたら毒かもしれないし。このあと、必要な展開になるかもしれないからね。』

「なかなか手を出せないものだな···」

『ふふっ、ここまでアイテムが見つかるのが凄いよ。序盤の筈なんだけど···』

「?そうなのか?」

『序盤は基本お話パートだから。探索パートに移行するのが遅いゲームもあるよ。もちろん例外もあるけど。』

「つまりこれは『例外』に入ると?」

『うん、多分ね。』


頭の回転が速い赤司くんは、着々と現状を理解していっている。赤司くんと一緒にゲームしたら速攻でクリアしちゃいそうだな···それはそれで面白そうだけど。


『他には···あり?これは、簪?』

「洋の中に和があるとは···」

『にしても鬼灯の簪って全体的に高いのに···』


引き出しの中に唯一入っていた簪。それは簪の中でも高価な鬼灯の品だった。

持ち上げた時に鬼灯の中に入っている何かが音をたてたが、特に気にすることもなく観察をする。

鈴のような音がした気がするけど···その時の私は、然程気にすることはなかった。


「鬼灯の簪は高価なのか?」

『うーん···良いもので4、5万するかな···』

「へぇ···」


まあ、赤司くんは着飾ったりとかしなさそうだし···寧ろ派手にしない方が良さそう。着物似合いそうだなー。


『あとは無し!よし、じゃあソファーへれっつごー!』

「何かあるとは思わないが···」

『意外と下とかにあったりするんだけどなー···』


ソファーの間や下の隙間を覗きこんでも特に何も見えない。そもそもこの部屋薄暗いしね。

···ってか


『ソファー柔らかっ!!』

「ふふっ、以外と子供っぽいところもあるんだな。」

『む、柔らかいから赤司くんも座ってみなよ!』

トントンと隣を叩くと苦笑いが帰ってくる。子供っぽくてすいませんね!

それでもやっぱり優しい赤司くんは、ゆっくり私の隣に腰かけた。

ソファーの沈む感覚。すぐ横にある水色と白色のジャージ。ふわりと香る、赤司くんの自然な匂い。

ただそれだけで、暖かい気がした。

「······確かに、柔らかいね。」


ホッと一息ついた私達。現状は何一つ変わっていないのに、妙な安心感があった。張り詰めていた空気が少し緩まった気さえする柔らかさ。家にほしい。

ソファーには何も無かったけど···これはこれでありかな。なんかHP回復した感じだ。

先輩とかテツヤ元気かな···?じゅんじゅん先輩クラッチタイム率上がったし···あー、ゲームとバスケしたい···

っていうか赤司くんは洛山高校だもんね。私を知ってても当たり前か。

私はプレイのサポートしか出来ないから基本敵の情報集めとかしないんだけど、流石に戦う相手の名前は覚えて来たからなー。

まあ、赤司くんの名前及びに洛山高校選手の名前がうろ覚えなのにはしっかり理由があるんだけど。

マネージャーとしてよりコーチに近かったしね。

あー···赤司くん、テツヤの幼なじみっては知ってたけど誠凛のマネージャーだって知らないかもなー。まあ、どのみち後で知ることになるかー。


先輩たち、いなきゃ、いい···けど······




そこまで考え瞼を閉じた私は、何故かとてつもない疲労感と睡魔に襲われ、心地好い闇に身を委ねた。

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