Holy&Crazy

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 昼間中かかって、夜通し騒げるほどの料理をてんやわんやで用意しておく。
 今日で『ポヨン』も店じまい。J9 休業の裏事情の打ち上げと、ソドムの連中に対しての表の打ち上げを、いっぺんにやってしまうわけだ。
 一体どこが、小さな、パーティーなんだ?知ってりゃ朝までなんてヤってやしなかったぜ。

 夕方、キリアンとポンチョが現れた。アリカ婆ちゃんには使いをやって昼頃には来てもらった。お町の件はもうとっくに引き受けてくれている。お町は、ちゃんとしかってもらったんだろうか、、、。

「いゃあ、もう!驚きましたでげすよまったく。本当〜に、3年後には再開のお運びになってくれるんでげしょうねぇ?頼みますよ、、っ」

「そう言うなってー!もう決まっちまったのよ。だいたい俺ちゃん達よりよっぽどお金持ちなんだから、困りゃしないでしょっ」

 鉱山の事があったにしても、よく承知してくれた。まあ、愚痴くらいの事は幾らでも聞いてやらなきゃ。

「アイザックさん、準備できたよ!J9 の方のお客さんもそろったし、そろそろ店開けてもいい?」

 お町と二人でカウンターに立っていたアイザックに、厨房から顔を出してシンが訊く。

「いや、まだ開けないでくれ。シン、おばあちゃんをこちらにお連れして、、お前もその辺のテーブルでちょっと休んでくれ。お町もな。そのまま少し待ってくれ」

 何だか、、な。俺たちは皆そろって客用のテーブルで待たされるらしい。アイザックは厨房にいたメイだけを連れて奥へ入って行った。
 皆それぞれと見交わして首をかしげる。この期に及んでアイザックは何か隠し事だろうか、、?
 しばらくして戻ってきたアイザックは、、、、そりゃあもう!キッチリ、ビシッと、タキシードなんか決めちゃってるイイ男。

「わ!どうしたんだよソレっ?ドコから手に入れたのさ、タキシードなんて」

「すっげー、さすがアイザック。元がいいと決まるもんだネー。それにしたってさ、何もそこまでチャキンと決める事ないでしょーに、、、」

 ボウイが代表するように問うた疑問は、最後まで言えずに答えが、現れた。
 何も言わずに、目で穏やかな笑みを見せて厨房の入り口に立っていたアイザックが、すいと一歩ずれて奥へ手を差しのべ、、、その手に引かれて現れた答え、それは、、、、純白のウエディングドレスに身を包んだ、メイ。
 俺たちはぽかんと、口を開けたまま、、、、一言も声が出ない。
 驚きが、感動に変わっていく。メイが、、、そう、眩しい。綺麗だというだけで充分感動的なのに、それだけじゃなくて、、、白、、、輝くばかりの、、銀とも違う、、、その白のイメージが、柔らかに、誇らしげに恥ずかしげに、華のように光を振りまいて広がる。

「お願い、、みんな、なにか、言って、、、」

 アイザックに手をとられ、うつむき加減のメイが溶けて消えそうな声でそう訴えて、ずっと見とれてしまっていた俺たちは、ハッと飛び上がる。

「い、イヤッホ〜!もうっ、最っっ高っ!」

「ね、姉ちゃ、、す、すご、、綺麗、、、お、オレ、、、っ、、、!」

 親族を差し置いて真っ先に飛び出したボウイがメイを抱き締め、遠慮もへったくれもなくアイザックに抱きつく。先を越されたシンもすっとんで行ったが、メイの前で立ち尽くす。
 俺もあたふたと、足を引きずりながら駆け寄りメイを抱き締めた。こんなにしっかりメイを抱き締めた事はない。いやずいぶん前、、まだ小さかった頃にはあったと思う。走り寄って飛び付いてきたメイを抱っこした、そんな時の事がパッと思い返されたが、いま腕の中にあるこの細っこい体からは、、、もうしなやかで決して折れない女の匂いが、純白の気高さとともに立ち上ぼり、、、手を放した。
 俺もボウイもツイ嬉しくてやってしまったが、、、今日のこの姿だけは、、触れてもよかったのだろうか?アイザックでない者の手が触れて、この白は汚れてはいないだろうか。そんな風に、、妙に厳粛な気分になってしまったのだ。
 今までケッコンという儀式がこんなに神聖なものだとは、まるで気が付きもしなかったのだ。夕べボウイにあんな事を言われてさえ。
 何だか悪いことをしたような、恐縮してしまう自分が恥ずかしいような、、、で、ごまかしついでにアイザックをど突いてやったが、、、。こんな時くらい照れて赤くなるとか、鼻の下のばして見せるとかすりゃあいいのにらこの新郎の堂々と落ち着き払った態度といったら!
 お町がゆっくり近づき、そっとメイを抱き寄せた。どうもこれは、知っていた様子だ。

「良かった、、。よかったねメイ。素敵よ。おめでと、、」

「お町さん、、ごめんなさい、、あたしだけ、、」

「もうっ、何度も同じこと、、言、わ、な、い、の。あたしだっていつかね、ほんとに一緒になりたい男が現れたら着るわよ、ウエディングドレス。その時になったらJ9 なんかやめちゃうんだからっ」

 今に見てなさい、と言わんばかりに振り向いて、俺とボウイに飛びきりグサッと来るようなウィンクを投げてよこす。サディスティックな女神様が復活なさった。

「ま、マジで披露宴じゃん!こりゃーめでたいダブル・ウエディ、、、」

 ボウイの馬鹿がそれ以上言う前に松葉杖で殴った。
 キリアンと婆ちゃんを立会人に、無国籍どころか宇宙規模で形式をミックスさせちゃったような結婚の誓い。
 アイザックが「誓います」と言った時、すかさずボウイが耳元で同じセリフを囁いた。もう一度殴ってやろうかと思ったが、俺自身が感じた神聖さに免じてやめておいた。こうなったらめでたさツイデ、花嫁側の立場というのはいただけないが、メイの後に続いて囁き返す。
 改めて、祝いの言葉の嵐の中、シンはアイザックの前に進み出た。

「姉を、、、、よろしくお願いします」

 アイザックが、シンに、深々と頭を下げる。
 もうとっくにアリカ婆ちゃんは顔をくしゃくしゃにして泣いている。ポンチョもだ。

「嬉しいったらもう、、イシュタルが逝っちまって、あたしゃあこれでとうとう一人っきりかと思ってたのに、、、あんた達はこうして祝い事に、このバアを呼んでくれるし、、この先も頼ってくれようってんだから、、。お嬢、安心してお任せ。いい子をお産み。メイちゃんも、近いうちにあたしに取り上げさせとくれよ」

 俺にしてみれば想像を絶する心強さ。このバアちゃんがいてくれるなら、お町もきっと大丈夫。

「それにしてもさ!そうと知ってたら祝いの品の一つや二つはさぁ!あっ!そうだっ、シン、ちょっと一緒に来い!えーと、店、開けててもいいよ、すぐ戻るっ」





 
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