桜月夜2

□41.ロマンスのかけら
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優しい冬の木漏れ日が淡い黄金色に窓から射し込む静かな午後。窓辺のお気に入りの場所ではるかはイギリスロマン主義に代表されるキーツの詩集を原文で読んでいた。その本は何度も読み込まれた様子で、ページの角は丸くなり、青いアンダーラインがところどころに引かれているが、ずっと大事に使われていた様だ。「はるか、その本、気に入っているんだね。キリの良いところで休憩にしない?お茶にしましょ。今日は初摘みのセイロンが手に入ったからロイヤルミルクティを煎れてみたの」「ありがとう。良い香りだね。じゃあ、冷めないうちに頂くよ」「どうかしら?美味しい?」「あぁ。すごく美味しいよ。こんなに美味しい紅茶は久しぶりに飲んだよ。やっぱり君が心を込めて煎れてくれたからかなっ」「そう言われると照れちゃうな。ねぇ、その本って面白いの?」「うん。素敵な本だよ。この英語の韻を踏む時の響きがとても美しくて切ないから、僕は大好きなんだよ」優雅な仕草で2杯目の紅茶をゆっくりとジノリのティ―カップに注ぎながらほたるはにっこりと天使の様に微笑んだ。今、彼女が着ているピンクのモヘアのセーターはふわふわの羽根みたいに柔らかそうで、雪みたいに透きとおっている滑らかな肌に映えて、良く似合っている。その様子がまた、とても愛らしかった。「そのセーターは素敵だね。ほたるに良く似合っているよ」「ありがとう。はるかも素敵だよ」僕の方は白いシャツに、金ボタンが付いたモスグリーンのカーディガンという組み合わせだった。「ねぇ、もうすぐヴァレンタインだね。ほたるはどんな物が欲しいかぃ?」「そうね…チョコレートボンボンかな。でもね、はるかが一緒に居てくれるのなら何もいらないんだ。はるかは?」「僕は君とこのままこうして永遠に過ごしたいよ」さりげなく言ったけど、その言葉には素直な僕の気持ちがこもっていた。ほたるは急に照れて黙ってしまったが、やがてこう言った。
「はるかかそんな事を言ってくれるなんて夢みたいだよ。それを聞けただけでも私はすっごく嬉しいんだからね」「ヴァレンタイン当日はこうご期待だよ」「うん。なんか楽しみだねぇ。どうせなら雪が降るといいなぁ」「雪かぁ、ほたるも随分とロマンチストだね。詩人になれるよ」静かな午後のお茶と他愛のない会話。それだけでもう十分幸せなんだよ。
fin.
2004.2.9.

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