桜月夜2

□42.セレクト
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今日はヴァレンタイン。はるかがいつもより少し早く帰宅すると、家には誰もいなかった。いつも何かと忙しいみちるはわかるが、一人ではめったに出掛けないほたるまで、いなかったからか、部屋が少し寂しく感じられた。「ただいま。あれ!誰もいないの?」まぁ、これからやろうとしている事には好都合だけど、そう思いながらはるかは愛用のエプロンをつけてキッチンに入った。今年は生チョコのトリュフを作る予定なのだ。さっき、買ってきたばかりの材料を並べ、レシピを読む。そして今年もはるかとチョコの戦いが始まった。ちょうど同じ頃、デパートの特設売り場で、一人の小さな女の子が、人混みにあふれかえる高級チョコレートのコーナーで、レジに並ぼうと苦戦していた。小柄な彼女は人に途中で割り込まれたりして、なかなか順番が回ってこなかったのだ。やっと自分の順番になり、お目当てのチョコが買えた時、ほたるは思わず小さくガッツポーズをした。今年、ほたるがはるかの為に選んだ物は、リアルなバイクの模型の中にチョコレートのリキュールが入っている物だ。例年とは、少し趣向を変えて大人っぽくて珍しい物にしたのだ。毎年、半端じゃなくモテる彼女を持つと、こういう時に苦労する。それは長年、一緒に住んでいて、彼女の趣味や好みまでをしっかりと熟知しているほたるだったから、見つけられたプレゼントだと言っても過言ではなかった。デパートからの帰り道、戦利品を片手にほたるは笑顔で溜め息をつくとこう呟いた。「これなら絶対に喜んでくれるわ…」はるかの笑顔が目に浮かぶ様で嬉しくなる。ほたるは家路を急いだ。一方、キッチンのはるかは冷蔵庫にチョコを入れて冷やし固めていた。今年は素材が生チョコだけに、テンパリングする時の温度には苦戦をさせられた。形はちょっといびつだが、美味しそうなトリュフが出来上がった。ほたるの喜ぶ顔が早く見たかった。キッチンを片付けながらはるかはこう呟く。「僕の愛はこのトリュフより甘いよ。なんてね…」しばらくして、ほたるが帰ってきた。「ただいま。はるか、今日は早かったんだね」「まぁね。ほたるはどこに行ってたんだぃ?」「えへへ。今日はヴァレンタインでしょ。これ私からのチョコだよ。受け取って」「ありがとう。開けてみてもいい?」「もちろんよ」「うわぁ!かっこいいじゃん。実は僕もほたるにあるんだ。はい。どうぞ、お姫様」「ありがとう。あっ!美味しそうなトリュフだ。どこで買ったの?」「えっと…それは僕の手作りだから…形がちょっといびつになっちゃった。ごめんね。でも、愛はたっぷり入っているよ」「えっ!すっごく嬉しい…」ほたるは天使の様な微笑みで、にっこりと笑うとはるかに抱きついてこう言った。「はるか、大好き」「あぁ、僕もだよ」やがて、二つの影が一つに重なった。
fin.
2004.2.14.

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