桜月夜2

□45.優しいKISSをして
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出掛けようとしているとやっとほたるが起きてきた。「あっ!おめかしちゃってどこかに行くの?」僕はほたるの問いに曖昧に答える。「うん。まぁ、そんなとこかな」「星野君とでしょう?顔に書いてあるよ」こんな時のほたるの勘は鋭い。僕はそれを隠さずに呟く。「ホント。いつも突然だよな。昨日の夜急にメールが入ってさ…強引なんだから。アイツは…」「ふうん。それでも嬉しいくせに。はるかも素直じゃないんだから」ませた口をきく彼女の髪をそっと撫でると、玄関に出た。一人になると胸の鼓動はいやがおうにも高まってくる。なんだかそんな自分に戸惑ってしまう。でも、それは決して悪い気分じゃなかった。やがて、バイクの音がしてアイツがきた。「おっ!早いな。今日はバイクだけどいいか?」答えるかわりに頷いてみせる。言葉にしてしまうとまたいつものように憎まれ口ばかりをたたきそうだったから。「やけに今日はおとなしいな?じゃ、行くぜ。しっかりつかまってろよ。はるか」「うん」春の風を切って走るバイクはとても気持ち良かった。星野の背中ごしに伝わってくる体温がやけに心地良い。「寒くない?」「いや。平気」高速を抜けると海岸に添ってしばらく走ると風は海の風に変わった。潮風が二人の髪を揺らす。砂浜にバイクを停め、お互いにグシャクシャになってしまった髪を見て笑いあう。「そういや、お腹空いたな?」その一言で大事な物を思い出した。「あっ!そう言えば、おべんとう持ってきていたんだ。食べようか?」鞄の中に入れていたランチケースを取り出して見せる。外側に少し寄ってはいたが、どうにか朝に詰めた時のままの状態が保たれていた。「何?それ、もしかして手作りか?マジかよ!嬉しいな」「ちょっと崩れちゃったけどね」美味しそうに鶏の唐揚げをつまむ星野を見ているとなんだかこっちまで嬉しくなる。早起きをして作った甲斐があった。ランチケースがすっかり空になった頃、星野がぽっりと言った。「そうだ。俺もはるかに渡したい物があったんだ」急に胸が熱くなる。「えっ!何?」「何って…こっちの習慣じゃ今日がホワイトディで、バレンタインのお返しをするんだろう?俺もお前にチョコを貰ったから、そのお返し。ちょっと目を閉じて」言われるままに目を閉じると、首にヒヤリとチェーンが触れる感じがした。「もう、目を開けていい?」湧き上がる好奇心にとうとう我慢が出来なくなった僕はそう呟いた。「うん、いいよ。気に入ってくれると良いんだけど…」「ありがとう、星野。ちょうどこんなのが欲しかったんだ。それと…」その先は照れて言えなくなってしまった。「それと…何?」星野が優しく促す。どうしても聞きたいらしい。「実は初めてなんだ。こうやってホワイトディにデートをして、プレゼントを貰ったの…」「じゃあ、これも初めてだな」星野はにっこり笑うと僕に甘く優しいキスをした。優しい潮風が二人の頬を吹き抜けていった。
fin.
2004.3.14.

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