桜月夜2

□49.光る森
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爽やかな風が白いカーテンを揺らし、ブルーグレーの空にはシャンパンゴールドの細い三日月が淡い銀白色に輝き始めている夕暮れ。そっと、はるかは体をベッドの上に起こした。その刹那、開け放していた窓から涼しい風が吹き、はるかの短い蜂蜜色の髪を優しく撫でていく。夕方になり、さっきよりも気温が下がったからなのか、熱がまた出る前の前兆なのかは分からなかったけど、少し肌寒く感じられる。シャツの上に薄いブルーのカーディガンを羽織ると窓を閉めた。窓際にある椅子に座り、これからの事をぼんやりと考えていた。どうしても不安な気持ちが募って暗い思考が頭から離れない。そんな時、部屋のドアを誰かがノックした。「誰?どうぞ。開いてるよ」遠慮がちにドアが開き、星野が入ってきた。「具合はどうだ?寝てなくていいのかよ…。これ、お土産」そう言いながら星野ははるかの手に小さなテディベアを握らせた。そのテディベアを両手で弄びながら、はるかも答える。「うん。今日は少し良いんだ。昨日は熱があったけどね…」「そっか…。じゃあ、ちょっと散歩にでも行かないか?お前にすごく見せたいものがあるんだ」しばらく歩くと森があり、綺麗な水の流れる川のほとりで星野が立ち止まった。すると、そこには無数の小さな光が辺り一面に乱舞している幻想的な風景が広がっていた。「蛍か…綺麗だねぇ…」「あぁ。この前、見つけたんだ。あまりにも綺麗だったから、一緒に見たくてな」淡く輝く小さな光は宇宙に散らばる星の欠片のようにも見える。一匹の蛍がはるかの掌に止まった。きらきらと点滅する柔らかな光はこれからどうなっていくのかと不安でたまらなかった心を癒やしてくれる。しばらく、それを楽しんだ後、葉の上にそっと逃がしてやった。「星野、ありがとね。少し元気が出たよ」照れた星野は、急に赤くなった。驚いたけど、なんだか嬉しかった。「また、来年も2人でここに蛍を見にこよう。約束だ」「うん…」そう言うとはるかは、星野にそっとキスをした。まるで、森全体が光に包まれているようだった。
Fin.
2004.6.3.

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