桜月夜2

□50.秘密の花園
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梅雨の晴れ間、白い綿雲から覗く青空はもう夏の色。一陣の風が吹き、さらりと裾のレースが揺れた。その時、肩をポンと叩かれて振り返ると、そこには大好きな人が立っている。今日のほたるは黒いレースやフリルのたっぷり付いたワンピース、ちびうさは薄いピンクのレースやフリルが付いたワンピースといった格好だ。美少女の2人がそうやって腕を組んで歩いていると皆の目を引くらしい。ほたるは、はにかんだように微笑むと、ちびうさの手をしっかりと握り、人通りの少ない道まで走った。まだドキドキと鼓動が高鳴っている胸を押さえながら、彼女はこう言った。「ちびうさちゃん、お誕生日おめでとう」「ありがとう。ほたるちゃん」今日はちびうさの誕生日。2人でデートなのだ。ただし、行き先がちびうさに内緒というのがいつもと違う点だ。暑い陽射しがじりじりと容赦なく照りつけ、2人はとりあえずカフェでお茶を飲む事にした。「あれっ!どこに行くの?」「ふふっ。まだ内緒」細い裏通りを抜けて静かな住宅街の路地を歩く。
やがて、ほたるが足を止めた場所は、白い石造りで青い屋根のお洒落な洋館だった。カフェというよりも古くからある瀟洒な別荘という趣だ。
「さぁ、着いたよ。ちびうさちゃん」「え…。ほたるちゃん、ここって…本当に入っていいの?」「もちろんよ。ここは知る人ぞ知る、秘密の場所なんだよ」
中に入ると、そこは、至る所に薔薇の花やテディ・ベア、ステンドグラスなどが飾ってあり、クラシックがゆっくりと流れている。なんともいえない独特の雰囲気があった。
喉の渇いていた2人はとりあえず、特製アイスティーを頼んだ。「はぁ〜。可愛い場所だね…素敵!」「気に入ってもらえて良かった。はい。これは私から…」そう言うと、ほたるは赤いリボンのかかった小さなピンクの包みを差し出した。「ありがとう、ほたるちゃん。開けてみてもいい?」「もちろんよ」出てきた物は、細かいところまでいちご模様の刺繍の入ったハンカチと、レースの付いた靴下だった。「わぁ、ちょうど、こんなのが欲しかったんだ!刺繍も細かくて綺麗!これ、どこで買ったの?」「…それね、刺繍は私が入れたの…。お店にあったのはステッチの加減が荒かったから…巧くないと思うけど、良かったら使ってね」「凄いよぉ!大事にするね」やがて、運ばれてきたアイスティーはグラスにミントの葉と生クリームが添えてあり、自分で好きな味を楽しめるようになっていた。それを飲み干して隣りを見ると、グラスの向こうでほたるが照れくさそうに笑っていた。
カフェを出て、またしばらく歩くと、今度はこじんまりとしたイングリッシュガーデンに着いた。そこは個人が管理している私有庭園のようで、隅々まで手入れが細かく行き届いているのがすぐに分かった。今はちょうど夏咲きの薔薇が満開だった。ピンクや赤い薔薇に囲まれた散歩道の中でちびうさはそっと呟いた。
「ねぇ。こんな所にこんな素敵な薔薇園があったなんて知らなかったよ!」「ふふっ。私の大好きな秘密の場所は、気に入ってもらえたかしら?」「もちろんよ。連れてきてくれてありがとう」「いえいえ。ちびうさちゃん、ちょっとこっちを向いて…」そういうと、ほたるは素早くちびうさの肩を抱き寄せて、甘く溶けるようなkissをした。そのkissは微かに薄荷の味がした。こうして、大好きな人に祝ってもらえて、大事な時を過ごせた今日の誕生日が一番の幸せなプレゼントだとちびうさは感じた。名残の薄荷の味は口の中にいつまでも甘く残っていた。
Fin.
2004.6.30.

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