桜月夜3

□86.幻想的な星の欠片
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爽やかな風がピンクのカーテンを揺らし、ブルーグレーの空にはシャンパンゴールドの満月が淡く輝き始めている夕暮れ。
そっと、うさぎは体をベッドの上に起こした。その刹那、窓から涼しい風が吹き、黄金色の髪を優しく撫でていく。
夕方になり、さっきよりも気温が下がったのか、熱が出る前の前兆なのかは分からないけれど、少し肌寒く感じられ、部屋着にしている白いガーゼのワンピースの上に、薄いピンクのカーディガンを羽織ると、窓を閉めた。

あの銀河の最終決戦から、数年が経ち、平和が訪れた。
ただ、あの戦いでシルバームーン・クリスタルの真のパワーを解放した、うさぎはその代償として、生命力の殆どを失い、辛うじて命は取り留めたものの、もうセーラームーンに変身する事も出来なくなってしまった。
かっての元気な姿は、すっかり消え、身体も弱くなり、頻繁に倒れたり、熱を出す事も多くなった。ベッドから儚げに微笑む少女が現在のうさぎだ。
今までしてきた事に後悔はないけれど、時々、気持ちが揺れて、寂しくなる。
そんな時、ドアを誰かがノックした。
「誰?開いてるよ」
遠慮がちにドアが開き、はるかが入ってきた。
「うさぎ、具合はどう?これ、可愛かったからお土産」
そう言いながら、はるかはうさぎの手に小さなうさぎのぬいぐるみを乗せた。
そのぬいぐるみを両手で撫でながら、うさぎも答える。
「ありがとう、はるかさん。ホントこれ、可愛いね。今日は少し良いのよ…」
「そっか…。ちょっとドライブに行かない?うさぎにすごく見せたいものがあるんだ」
「うん、良いよ」
しばらくドライブをすると、綺麗な水の流れる川に着いた。
そこは無数の小さな光が辺り一面に乱舞している幻想的な風景が広がっていた。
「蛍ね…綺麗ねぇ…」
「あぁ。この前、偶然見つけたんだ。あまりにも綺麗だったから、うさぎと一緒に見ようと思ってね」
淡く輝く小さな光達は、宇宙に散らばる星の欠片のようにも見える。
ふわりと一匹の蛍がうさぎの掌に止まった。きらきらと点滅する柔らかな光は、これからどうなってしまうのかと不安に揺れる心を癒やしてくれた。
しばらく、それを楽しんだ後、葉の上にそっと逃がしてやった。
「はるかさん、ありがとね。ちょっと元気が出たよ」
「気に入ってくれたのなら、良かったよ。僕のプリンセス」
はるかの耳が急に赤くなり、照れているのが、分かった。
驚いたけど、なんだかすごく嬉しかった。
「ねぇ、うさぎ。僕はずっと君の側に居るよ。だから、来年もここにふたりでこよう。約束して」
「うん、約束する。はるかさん、大好き…」
そう言うと、うさぎは、少し背伸びをして、はるかにそっとキスをした。
幻想的な光に包まれて、ふたりは幸せを感じた。

End.
2015.6.4.

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