桜月夜3

□91.お預けなデート
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それは、誕生日の朝の事だった。
「朝だよ。うさ」
衛が優しくうさぎに声をかける。
側で寝ていたうさぎがゆっくりと瞳を開けると、顔色がやけに白く感じられた。
「どうした!具合でも悪い?」
「ちょっと体がダルいだけだから…平気よ」
そう言ううさぎの顔色は、さっきよりも蒼白に近い状態で、明らかに無理をしている様子だ。
「じっとしてて。体温計、持ってくるから」
「うん」
ひとりになった寝室でうさぎは大きくため息をついた。
よりによって、誕生日の当日に体調を崩すなんて、ツイてない。
ずっと前から、今日はクラゲが有名な水族館に行って、デートをする約束をしていたのに…。
自分でも、すごく心待ちにしていたから、余計に悔しくて、少し泣きたくなった。
しばらくして、体温計を持った衛が部屋に入ってきた。
「うさ、熱を計ろうな?」
そして3分後、結果は、38℃8分の熱が出ていた。
「まもちゃん、デートの約束を破って、ごめんね…」
「そんな事、気にするな!たまにはこういう年もあるよ。でも、俺はうさと一緒に過ごせるだけで、楽しいぞ」
そう言いながら、衛はうさぎの額に冷たい水で絞ったタオルを乗せた。
「気持ち良いか?今日はおとなしくして、寝ている事!」
「…ずっと側に居て…」
ぽっりと、うさぎが本音を呟いた。
「何?」
「ううん…何でもなぁい…」
そんなうさぎが愛しくて、可愛くて、大切に抱きしめていた。
それはきっと、彼女の心が昔からずっと変わる事なく、自分の心の奥へと響くからだろう。
誰よりも優しくピュアで強い心を持つうさぎ。
彼女の事は全力で支えていきたいし、これからも永遠に愛し続けるだろう。
「なぁ、うさぎ、今年はダメになったけど、来年も再来年もあるよ」
「そうだね…」
しばらくすると眠ってしまったうさぎのくすり指に、パールとムーンストーンがアクセントになったリングをそっと嵌めた。
「お誕生日おめでとう。うさぎ」

少し経って目覚めたうさぎがそれに気付き、天使の様に微笑んだ。
その微笑みをずっと護る事が、昔から変わらない俺の願いだ。

END.
2015.6.30.

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