桜月夜3

□93.夏のバカンス
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梅雨も明け、ある晴れた夏の日。
青空に蝉がミンミンと鳴いて、今日も暑くなりそうだ。
「じゃ、行こうか」
「うん」
ほたるを優しく抱いて、はるかは愛車の助手席に乗せた。
「ほたる、クーラーの風、どうかな?」
「今はちょうど良いよ」
今日から、暑い都会を離れて、避暑地にバカンスだ。もちろん、ほたるの転地療養も兼ねている。
やがて、高速を降り、しばらく走ると白樺林が見えてきて、風も爽やかになってきた。
「気持ち良いね〜」
「そうだな。もうすぐ着くよ」
白樺林に囲まれた小さなホテルは、とても可愛らしい建物だった。
「ここに泊まるの?」
「あぁ、気に入った?」
「もちろんよ」
予約した部屋に落ち着き、荷物を解くと、ベランダには野生のリスが遊んでいる。
それを見たほたるは、大喜びだ。
「見た?リス、可愛いね」
「うん。あと、おこじょとかも、たまに出てくるらしいよ」
「おこじょ、図鑑で見た事があるけど、可愛いんだよね。会えると良いな」
ほたるの笑顔を見れただけでも、連れて来た甲斐がある。
その夜は、ホテルの中にあるフレンチレストランでディナーになった。
「美味しいね」
「うん」
デザートに入る前に、はるかは紫のリボンがかかった小さな箱をジャケットのポケットから取り出した。
「ほたる、これ開けてごらん」
「えっ!これ…」
「この一年間、ほたるが頑張ってきたから、これは僕からのご褒美。この前、デパートに行った時に見つけたんだ。どう?」それは、ピンクゴールドの台座に小さい天使とハートのアメジストがちょこんと載ったアンティーク風のリングだった。
「こういうのがすごく欲しかったから、嬉しい!ありがとう」
「どういたしまして。ねぇ、ほたるは今、幸せかぃ?」
「もちろん、幸せよ。言葉に出来ないくらいね」
その一言を聞くと、はるかは華麗に微笑んだ。
「ほたるがそんな風に喜んでくれると嬉しいな」
「私もはるかが、大好きっ!」
そんな会話の後、2人で美味しくデザートのリンゴのジュレを食べた。
夏はまだ始まったばかり、はるかは最愛な人を腕の中に抱きしめた。

fin.
2015.7.24.

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