桜月夜3

□94.マーメイドの誘惑
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白い砂がさらさらと素足に心地良い。
暑く賑やかな昼間とは、まったく違う静かな海だ。
濃紺の夜空には黄金色の月が浮かび、きらめく波が銀色に輝いている。
なにかに誘われるように、波打ち際から、少しずつ海に入っていく。
つめたくて静謐な世界は気持ちが良い。
ココロも身体も清められていくようだ。
このまま、すべての生き物の母なる胸の中に溶けてしまうのも良いかなと、思った時だった。
不意に腕を掴まれ、温かなぬくもりを感じた。
「僕をおいてくなよ」
そうして、蜂蜜色の髪を揺らした彼女は、ちょっと微笑んだ。
「だって、海があまりにも綺麗だったから」
海の中で、お姫様だっこをされる形になってしまい、キスをかわすと、潮の味がした。
「一緒に帰ろう。お姫様」
「えぇ」
白い砂浜にふたつのシルエットが歩いていく。
「また、静かな世界に行きたくなったら、一緒にいってくれる?」
「良いよ。その時は一緒に行こう」
そのシルエットは、やがてひとつに重なった。

END.
2015.8.2.

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