桜月夜3

□95.Surprise
1ページ/1ページ

オレンジ色の夕暮れが全てのものを包み込もうとしている夏の夕方。
ベランダに佇み、ゆっくりと景色を眺めているうさぎの姿は、さらりとした長い金髪を三つ編みにしており、ミルクのような白い肌、美しいサファイアのような瞳が印象的で、彼女の持っている魅力を十二分に引き出している。
「会いたいなぁ…」
小さな呟きが風にそっとこぼれ、切なげに伏せた長い睫毛から涙が一粒、落ちる。
現在、彼女の想い人は、遠い異国に留学していて遠距離恋愛中なのだ。
机の上には、綺麗にラッピングされた誕生日プレゼントが置かれている。
郵便で送る予定なのだが、今日はあまりにも暑くて、家から出る元気がなかったのだ。

頭の中では、なかなか会えないと理解はしていても、感情が時折ついていかなくなり、こんな夕方には寂しさが募る。
ふと瞳を閉じ、思い出すのは、随分前の楽しかった日々の記憶ばかり。

不意に、懐かしくて温かいぬくもりを背中に感じた。
「ただいま」
まさか…おそるおそる目を開けると、そこには、最愛の想い人がうさぎの肩を抱いて立っていた。
「本物なの?夢じゃないよね」
まだ信じられないといった表情のうさぎに衛は優しくささやく。
「急に予定していたよりも早めに帰る事が出来たんだ。だから、連絡をいれなくてごめんな」
その言葉を聞いて安堵したうさぎの表情が明るく輝き、妖精のようににっこりと微笑む。
「私、ずっと逢いたかったよ…。おかえりなさい」
そう言うと、うさぎは最愛な人にキスを落とした。
「あぁ、俺もだ。うさに逢いたかった」
濃くなった夕闇の中で、衛はいつまでも恋人を抱きしめていた。

fin.
2015.8.3.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ