桜月夜3

□100.Trick or treat
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今日は、ハロウィンで街はお祭り騒ぎ。でも、夕闇の中には何かが潜んでいそうな日。
学校帰りのほたるは道をぼんやりと歩いていた。
爆発事故で母を失い、父は研究ばかりで、家に帰ってもひとりぼっちだ。
事故でほたるも全身に傷を受けたが、昏睡状態から奇跡の生還をし、父が執刀した手術によって一命を取りとめ、移植された細胞が体の失われた部分を補っている。
こんな体の秘密を誰にも知られたくなくて、全身にある事故の傷を隠すために、いつも長袖を着て、黒いタイツを履く。
最近、薬でもとまらない発作の回数が増えた。
あたしの体はいつまでもつのかしら。
こんな体になってまでどうして生きる理由があるの?
あたしに生きる意味はあるの?
そんなことを考えながら歩いていると、「Trick or treat」と声がした。
お菓子があったかなと思い、制服の胸ポケットを探ると、のど飴があった。
「のど飴でも、良いかしら?」
目が合ったのは、光の加減でピンクにも見える赤茶色の髪をシニヨン付きのツインテールに結わえた女の子だった。
「ありがとう。お姉ちゃん」
お日様のように暖かく笑ったその子は何かをほたるに渡してくれた。
「これ、お姉ちゃんにあげる」
渡された物は、綺麗なキャンディが詰まった瓶だった。
「良いの?」
「良いよ。うちに持って帰っても従姉が食べちゃうから」
「ありがとう」
ほたるはその子と別れると、そのキャンディ瓶を部屋の引き出しに大事に仕舞い、どうしても寂しい時に、それを一粒ずつ食べる事にした。
甘さが寂しさを溶かし、幸せな気分になることが出来た。
いつか、またあの子に会えたら、名前を聞いて友達になろう。
運命の時まで、あともう少し。

fin.
2015.10.31.

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