桜月夜3

□102.僕の白雪姫
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郊外にある赤煉瓦造りの小さな洋館。
フランス窓には、秋の薔薇の咲いた鉢が置いてある。
ラベンダー色の天蓋付きのベッドには、天蓋のカーテンと同じ色のシーツが敷かれており、縁にレースの付いたクッションが置いてあり、小さめなビスクドールがちょこんと座っている。
ベッドと反対の壁側には、木製のクローゼットと、たくさんの本が飾ってあるキャビネットがあり、家具も全て薄茶色で統一されていた。
天蓋付きのベッドの中では、ひとりの少女が眠っている。
さらさらの黒髪が枕代わりのクッションの上に散らばり、雪のように透けるような白い肌は、アラバスターの結晶のようだ。頬はほんのりと薄いピンク色に染まっており、まさに白雪姫のようだ。
病気の後遺症から、ほたるはひとりで歩く事も出来なくなり、痩せて筋肉が落ち、細くなった両足は、もう動かない。動かなくなった足は、自分では動かせないから変形して、乱暴に扱えば、壊れてしまいそうだ。
小さな痩せた身体や、儚げな手足は、柔らかなブランケットの中に隠されている。
「おはよう。僕の小さなお姫様」
僕はほたるを、抱き上げて、ピンクの薔薇の花びらのような柔らかな唇に、そっとキスを落とすと、彼女はゆっくりと目を覚ます。
「おはよう。はるか」
はにかんで微笑む、その笑顔がなんとも可愛らしい。
「そうだ。ほたる、今日は、何の日だ?」
「えーっと、わからないよ〜」
「今日はね、このおうちに引っ越して来て、ちょうど一年の記念日だよ」
「もう一年か、早いよね」
「そうだね」
ここに来た頃よりも、ほたるは体力が落ち、さらに儚さが増したけれど、今もこうして僕の側で微笑っていてくれる。
それだけで僕は幸せだ。
「ねぇ、はるか。私、なかなか元気になれなくて、ごめんね」
「ほたるは、そのままで良いんだよ。君はずっと僕の側に、こうして居てくれるだけで良いんだ」
「ありがとう」
そんな僕の小さな白雪姫は、僕の腕の中で、今までで、一番幸せそうに微笑った。

fin.
2015.11.18.

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