桜月夜3

□108.慣れない幸せ
1ページ/1ページ

廊下の窓を見ると、小さな真っ白い天使のような羽が降っている。
寒いけれど、キリっとした冬の朝の空気が心地良い。
今日は、はるかの誕生日。
部屋に入ると、ベッドには、短めなミルクティーブラウンの髪が散らばり、長い睫毛によって伏せられている意志の強い大きな瞳はブルートパーズのような深い蒼。
そして、象牙色の肌はきめ細かく、ほっそりとした肢体はどこか儚げで中性的だ。
そんなはるかにそっとキスをして起こす。
細い身体を、ギュッと抱きしめると、微かな甘い香りがした。
「お誕生日おめでとう。はるか」
「ありがとう。みちる」
そう言うと、彼女は照れくさそうに微笑んだ。
「ねぇ、今、何を考えていたの?」
「内緒…みちる。僕はこんなに幸せでいいのかな?」
彼女はぽっりと呟いた。
「時々…こうしているとさ、幸せな時は、実は夢なんじゃないかって思うんだ…」
「そうね。はるか、私も貴方と一緒に居られるだけで幸せよ」「馬鹿だよね…なんだか幸せに慣れてないんだ」
「分かるわ」
生まれた幸せを一番感じる誕生日だからこそ、過去の孤独の影に怯えるのは、よく分かる。
端正なはるかの横顔が愛おしくて、絶対にふたりで幸せをつかもうと思った。
幸せに慣れるまで、あと少し。

fin.
2016.1.27.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ