星月夜1

□01.キスは、いちご味
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桜の花びらがはらはらと舞い落ちる。それはあまりにも儚げで、手に触れば溶けてしまいそうな薄紅色の雪のようだ。美しい春の光景なのにどこか胸の奥がざわめく。
この部屋の主であり、ダブルサイズのベッドに横たわっている愛莉。くせのない黒髪と透けるような白い肌、大きな瞳が印象的な美少女だ。
元々、病弱だった彼女は、インフルエンザをこじらせて、昏睡状態が長く続き、奇跡的に意識は回復したものの、高熱のせいで重い障害が残り、歩くこともできない。
「…おはよう…蒼羽ちゃん」
「おはよう。愛莉、具合はどう?」
「悪くはないわ」
「身体を起こそうか?」
「うん」
蒼羽ちゃんはベッドから私を抱きあげて、上半身を起こしてくれる。

昏睡状態から、一命は取り留めたけれど、四肢の自由はほとんど失ってしまった私。食事も、入浴も、今までは一人で出来た事が、今はもう何も出来なくなってしまった。
ボンヤリしていると、蒼羽ちゃんが、ホットタオルで顔を拭いてくれる。
「熱くない?」
「うん、平気」
「そっか」
それが終わると、蒼羽ちゃんは、私をパジャマから可愛い服に着替えさせてくれる。私はパジャマでもいいのだけど、朝は起きたら、きちんと着替えをさせて、そうして着替えが終わると、抱き寄せて、車椅子へ乗り換えさせて、キッチンに連れて行ってくれる。もちろん、具合がいい時の限定だけどね。
「蒼羽ちゃんさ、なんで私の事をこんなに大事にしてくれるの?」
食事を食べさせてもらいながら、その合間に聞く。
「あたりまえじゃん。私が愛莉のそばにいたかったの」
「えっ!それだけの為に」
蒼羽ちゃんは、私の口に運ぼうとしていたスプーンを止めると、真面目な顔になって、ささやいた。
「大事な事だよ…。それとも、愛莉は、私の事、嫌いになったの?」
「そんなことないよ…。でもさ、私ワガママばっかりで、その上、自分ひとりじゃ何も出来ないもん…」
私の食事の介助をしながら、一緒に自分も食べている蒼羽ちゃん。
「愛莉、美味しい?」
「もう、いらない。ごちそうさまでした」
「お薬、飲もうか」
「うん、もうちょっと苦くなかったら良いのにね」
「苦いんだ。あっ!ちゃんと飲んだら…ご褒美あげようか?」
「やったぁ!」
「現金だなぁ…」
なんとか、薬を飲み終わった。後味の苦さを消す為に、飴を舐める。今日は、いちご味だった。
「あっ!忘れるところだった。ご褒美ね、じゃ、目を閉じて」
「 ……?」
目を閉じると、唇にキスが降ってきて、そのまま背後から、ギュッと抱きしめられた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
キスは、やっぱりいちご味。
END.
2014.12.17.

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