星月夜1

□02.ずっと一緒に
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今日も学校では、どんな雑誌を読んでいるのかとか、何色のドレスが流行りそうだとか、博覧会には行ったのかとか、宝塚歌劇が人気らしいとか、平和な、しかし、少女たちの世界では、とても重要な話題に満ちあふれていた。
ふいに吹き抜けた風が、千彬の水色の矢絣の袖と、頭の後ろで結んでいる濃い紅色の幅広なリボンと、長い栗色の髪を大きく揺らした。女学生の誇りでもある、海老茶色の袴と、茶色のブーツがキラキラと輝く。高い塀に囲まれた敷地に、二階建ての瀟洒な洋館が立っている。よく整えられた庭のベンチには、千彬の探し人がちょこんと座っていた。さらさらの長い黒髪と、大きな瞳、透きとおるような白い肌が、印象的な少女だ。
「ごきげんよう、千華様」
「あら、千彬さん、おかえりなさい」
「お姉様、どうして今日は学校にいらっしゃらなかったの?まさか、また、お加減が良くないの?」
「今日は、ちょっとご用があって、学校をお休みしたのよ。ほら、この通り元気よ」
千華が軽く微笑んだので、千彬は少しホッとした。
「学校をお休みするほどのご用って、何だったの?」
千華は意を決して、千彬に今日あった事を全て話した。
「私ね、今日、お見合いをしてきたの。来月には、結婚をするのよ」
「嘘でしょう!千華様はお身体だって、ご丈夫ではないのに…」
「そうね、千彬さん。私だって結婚なんてしたくないわよ。でも、お父様の命令なのよ」
千彬は、泣きながら千華に抱きついた。
「お姉様、私、ずっとお姉様と一緒にいたいの」
「いいわ、千彬さん。ひとつだけずっと二人で一緒にいられる方法があるの」
数日後、千華は自分の部屋に、千彬を呼ぶと、小さな瓶を渡した。
「これを飲みましょう、千彬さん」
「えぇ。ずっと一緒よ」
白い錠剤を飲むと、大きな寝台の上で、二人は抱きあって、目を閉じた。
「また、生まれ変わっても、一緒になりましょ」
「もちろんよ」
そして、幸せな眠りが、二人の少女をしっかりと包んでいった。
END.
2015.1.12.

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