星月夜1

□05.フェアじゃない世界
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聖ルチア学院、高等部の図書室は静かな場所だ。さらに放課後の誰も来ないような歴史書が並ぶ本棚の陰は、絶好の隠れ家のようになっていて、少女が二人、身を寄せあうようにして、抱きあっていた。二人は、紺色のブレザーに、モス・グリーンのチェックのスカートという制服に身を包んでいる。さらりとした黒髪をボブにしている、涼しげな目鼻立ちをした色白の少女は、襟元にオレンジ色のタイを結んでいた。
 一方、栗色がかった髪を二つに結った、愛らしい顔立ちの少女のタイは、ピンク色だ。学年によって、タイの色が異なる。オレンジ色のタイを結んだ少女の多英は、ちょっと微笑むと、隣に居る寮のルームメイトであり、可愛い恋人の千帆を、見つめ、ある物をブレザーの胸ポケットから取り出した。
「これ、みんなに内緒ね」それは、寮の規則では、持ち込みが禁止されているソフトキャンディだった。
「もちろんよ。それ、どうしたの?」
「私、今日、通院日だったから、さっき家に帰ってから寮に戻ってきたの。その途中に駅で買ったの。新発売だってさ」
「わぁ、嬉しい。多英ちゃん、大好き」
つぶらな瞳で見つめてくる千帆が、可愛い。
「どうぞ、千帆ちゃん」
千帆がそっと口を開けた。
「ありがとう。美味しい!これ、青リンゴ味だね」
「良かった。初めて買ったやつだから、心配だったんた」
「寮にお菓子の持ち込みを禁止って、規則は、嫌だねぇ」
「ホントよ。先生達は生徒間の公平性を保つ為って言っているけど、世の中って、まず公平じゃないよねぇ」
「そうそう。みんな、要領が良くてズルいもんね」
そのうち、数個あったソフトキャンディはすっかり無くなった。
「さて、遅くなると、寮母先生がうるさいから、帰ろっか?」
「うん。帰ろう。あっ!多英ちゃん、ちょっと待って」
「何?」
千帆はちょっと背伸びすると、多英にキスをした。
「ありがとう……」
「お礼だよ。…また、しようね」
「うん」
にっこりと笑った 二人の顔には、罪悪感というものがまるでなかった。
図書室ではおとなしくしなければならないなんて、誰が決めたのだろう。今、ここにいる事が、かけがえのない奇跡のようで、触れていたいから、抱きしめる事の何が悪いのか。
二人は、もう一度、しっかり抱きあった。
夕闇が静かにせまっていた。
END.
2015.2.4.

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