星月夜1

□09.天使の孤独
1ページ/1ページ

憧れの可愛い洋服を着る為に、無理なダイエットをして、朝礼で倒れてしまい、病院で検査を受けたあきほは、貧血が回復するまで、毎日の通院となってしまった。
「ヤバい!玄関ってどっちだろう?これは迷っちゃったかも」
壁も床も天井も、何もかもが真っ白な廊下を進むと、突き当たりにドアがあった。
ドアには鍵がかかっておらず、ドアノブを回すと、まるで世界からそこだけ切り取られたような、不思議な雰囲気だった。
そこには、華奢で小さな身体に、透けそうな白い肌、綺麗な黒髪に、美しい栗色の瞳の少女が、ピンクのパジャマ姿で、白いベッドに横たわっていた。驚いてはいるが、幼さを残した愛らしい表情が天使のようだ。
「あなたは、誰?」
「あきほだよ。道に迷っちゃったんだ」
「私、まひろっていうの。ここの病院はね、迷いやすいの。ちょっと待ってね」
そういうと、まひろはナースコールを押して、ナースを呼んだ。
「ちょっと、お願いしま〜す」
「はい。すぐ行きます」
すぐに、ナースが来て、まひろをベッドから車椅子に座らせてくれた。
「あら、まひろちゃん、お出かけ?」
「うん。このお姉さんが迷子なんだって。お散歩がてら、玄関エントランスまで、行ってきま〜す」
「外来の患者さんね、ここは迷いやすいからね〜。まひろちゃんの案内なら大丈夫ね」
「?」
「お待たせ。じゃ、行こうか。私ね、生まれつき体が弱くて、重い障害があるの。それで、ここにずっと入院してるんだ。病院の外にはあまり出た事がないから、外の事はわからないけど、ここの中の事ならまかせて!」
まひろは、車椅子を指先のレバーで器用に操作して、玄関のエントランスまで、あきほを連れて行ってくれた。
「ありがとう」
「どういたしまして。私も、あきほさんのお陰で、久しぶりにお散歩が出来たから、ラッキーよ」
「あのさ、まひろちゃんは、歩けないの?いつもあのお部屋に、一人でいるの?」
「うん、そうだよ」
「寂しくない?」
「寂しいっていうより、退屈ね」
「私ね、貧血なんだって。しばらく、ここに通院するから、また、お部屋に遊びに行ってもいいかな?」
「もちろんよ。また、いらして」
それがきっかけで、あきほは、天使と知りあった。

* * * * * * *

そして、次の通院日。
あきほは、自分の診察が終わると、まひろの病室に向かった。
ノックをして、部屋に入ると、今日のまひろは、ベッドに上半身を起こして、窓の外を眺めていた。
「あっ!あきほさん、いらっしゃい」
「あきほで良いよ。まひろちゃん、具合はどう?」
「じゃ、あきほちゃんって呼んでもいいかな?具合はねぇ、まぁまぁ良いのよ」
「うん、いいよ。今日は、お見舞いを持ってきたんだ」
そういうと、あきほは、まひろの手に小さなくまのぬいぐるみを乗せた。
「ありがとう、可愛い〜♡」
「これ今、私の学校で流行っているんだよ。そういえば、まひろちゃんは、学校って、どうしてるの?」
「中学までは、ここの院内学級で、高校は通信制の学校なの。だから、一人で勉強して、課題のレポートとかを提出すればいいんだ」
「そっか、大変そうだね」
「慣れているから、そうでもないよ。普通の学校の方が、私の体力だと、とても無理なの。それよりさ、流行っている物とかの話をしてよ」
それから、あきほは、まひろの請われるままに、流行のファッションや、小物の話をした。大きな瞳をキラキラさせて、自分の話を聞いてくれる純粋なまひろを守りたいとあきほは思った。
楽しい時間はすぐに過ぎ、あきほが帰った後、ガランと一人になった部屋で、まひろは長らく感じていなかった孤独を、久しぶりに感じた。
その時、ふと柔らかなものが手に触れた。
それはさっき、あきほがプレゼントしてくれた小さなくまのぬいぐるみだった。
まひろが、思わず、それを抱きしめると、くまのおなかから、小さなメモがベッドにはらりと落ちた。
そのメモには、あきほのケータイ番号と、メールアドレスが書いてあった。
もう寂しくはなかった。

* * * * * * *

その夜、あきほが課題をしていると、スマホに待ち望んでいた一通のメールが届いた。
そのメールには、こう書いてあった。
”孤独から救ってくれて、ありがとう。あきほちゃん、大好き♡まひろ”と。

fin.
2015.5.4.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ