星月夜1

□11.幸せの連鎖
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その部屋の中心には、天蓋付きのベッドが置かれていた。
 レスタ王国の末の王女であるカノンは、常にそのベッドに体を横たえている。
カノンは生まれつきの病気の為に、重い障害があり、手足を動かす事も、まともに話す事も出来ない。15歳になったばかりだが、5歳児程の身体と知能だった。
しかし、彼女は母譲りの流れるような黄金の髪と、透きとおった湖のような青い瞳を持ち、ミルクにピンクの薔薇の花びらを一枚落としたような肌が、とても美しい少女だった。
いつもにこにこと無邪気によく笑い、いつまで経っても幼い少女の姿で、まさに生きたドールのようなカノンは、他の王女達からも愛されている。
そこに座って居るだけで、周りの人の心を癒す事がカノンには出来た。
「ぁぅ…」
カノンの僅かな声を聞きつけたメイドのリタが、すぐにベッドに来た。
「姫様、今日のおやつはビスコッティですよ〜」
リタは車椅子を移動させ、ベッドからカノンを抱き上げ、丁寧な手つきでカノンのドレスのしわを直すと、車椅子に座らせた。
カノンが着ている柔らかなコットン・ガーゼ地のピンクのドレスは、白いレースとリボンがあしらわれた襟元が少し開いており、胸元にはギャザーとピンタックがたっぷり付いているゆったりとした仕立てで、肩の部分からふんわりとしたパフ・スリープになっており、よく似合っている。
「ぅ…」
「姫様の好物ですものね〜」
リタは、カノンの不自由な言葉を理解する事が出来る。
リタはゆっくりと車椅子を移動させると食堂ホールに向かった。

食堂ホールでは、アフタヌーンティーの用意が出来ていた。
ティースタンドが並んだテーブルがあり、ティースタンドの1段目にはラズベリーのケーキとフルーツが並び、2段目にはスコーンとビスコッティが並び、3段目にはきゅうりとハムのサンドイッチが並んでいた。
カノンはリタの介助で、サンドイッチをほんの少し噛り、ビスコッティにクロテッドクリームをたっぷり塗って柔らかくしたものを少し食べ、ラズベリーのケーキは一口だけ食べた。
紅茶も舌を火傷しないように、少し冷ましたものを、スプーンで一匙づつ飲む程度だ。
それでも、美味しいものを食べて、さらに可愛い笑顔になったカノンは、幸せだ。
その笑顔が、また周りの人達を幸せにしていく幸せの連鎖だ。

END.
2015.5.21.

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