星月夜1

□14.鳥籠姫
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加恋は、ミルクティブラウンのセミロングがよく似合い、高校のバレンタインにはクラスメイトからのチョコレートがたくさん机に積まれている程の人気者。成績も優秀なお嬢様だった。
そんな彼女は、ある日、学校からの帰り道、交通事故に遭い、脳に重い後遺症が残った。
ひとりでは、手足を自由に動かす事も難しく、ゆっくりとした会話をする事しか、出来なくなってしまい、学校も退学し、家から外に出る事も滅多になくなった。
雪のように白く透けるような肌、動けなくなってから、筋肉がほとんど落ちてしまい、痩せた身体は細くなり、手足は小さくなった。
常に部屋のソファに座っているか、車椅子に座っている彼女は、いつも窓から外を見て、過ごしている。
最近、ちょっと気になる人がいる。その子は、いつも寂しそうに歩いてきて、ちょうど加恋の部屋の窓に来た時だけ、ちょっと微笑むのだ。
何か仲良くなるきっかけを作りたいが、なにも出来ない自分は、まるで鳥籠のカナリアみたいだと思う。

* * * * * * *

蓉子は、今日も中学校でクラスメイトにいじめられ、ぼんやりと帰り道を歩いていた。
そんな蓉子の楽しみは、帰り道の途中にある洋館を眺める事だった。
その洋館の窓辺には、たまに美しい女の子が座っており、その女の子は、ミルクティブラウンの髪に、雪のような肌のお人形のような美しさがあり、昔からの知り合いのような親近感が湧くのだ。
学校に友達がいなくても、あの子を見れば、蓉子は幸せだ。
今日もいるといいなと思いつつ、洋館に近づくと、その女の子は、いつもの場所にいた。
いただけではなくて、蓉子を見ると、にっこりと微笑んでくれたのだ。

* * * * * * *

そして、今日は少し窓が開いていて、小さな声が聞こえた。
「まって」
その時、加恋の髪に結んであったリボンがいたずらな風に飛ばされた。
蓉子がジャンプすると、そのリボンは簡単に取り戻す事が出来た。
「ありがとう」
「どういたしまして、はい」
蓉子が手を伸ばしてリボンを渡そうとした時、相手の手が動かない事に気が付いた。
「貴女、もしかして動けないの?」
「うん」
「このリボン、どうすれば良いかな?」
「あがって」
そう言った加恋は、頬が赤くなった。
蓉子は、玄関にまわり、インターフォンを鳴らすと、綺麗なメイドさんが応待してくれ、事情を話すと、彼女の部屋に案内してくれた。
「加恋お嬢様、お客様をお連れしました」
ドアを開けると、可愛い家具や上品な小物に囲まれている部屋の中に彼女がいた。
なんとなく小鳥の巣のようだ。
「可愛いお部屋ですね」
「あなたのおなまえは?」
「私は、蓉子っていいます」
「わたしは、かれんよ」
それが、ふたりの出会いだった。

* * * * * * *

数年後、蓉子は、加恋とお茶を楽しんでいた。
お茶といっても、加恋は出会った頃よりも障害が進行し、現在は、ずっとベッドに寝たきりだ。
窓辺で車椅子に座っている事も減った。
お茶も少しだけスプーンから舐めて、あとは胃に直接通してある胃ろうのチューブに直接、お茶を入れるだけだ。
でも、蓉子は、加恋と一緒に居るのが大好きだ。
蓉子は、中学校を卒業して以来、あの洋館で加恋の世話をしながら、楽しく暮らしている。
穏やかで幸せな日々だ。
「ようこちゃん」
「何?」
「だいすき」
「私もだよ。加恋」
そう言うと、蓉子は加恋にキスをした。

END.
2015.8.13,

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