星月夜1

□15.心の氷が溶ける時
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千穂は、4年前の春、ひとりで留守番中に、不自然な姿勢のままで、バランスを崩し、頚椎から脊椎にかけての神経を痛める大怪我をした。
幸い、手術で痛めた部分を取り、一命は取り留めたものの、手足に麻痺が残り、自分では自由に動かせなくなった。
身体にも、手術の痕や、点滴の痕が残り、それを隠す為に、いつも露出度の少ない服だ。
排泄も怪我の後遺症で、感覚が麻痺してしまい、おもらしをしてしまう為、下着は紙おむつをするようになった。
今まで、なにげなく出来ていた事が、何も出来なくなってしまい、いつも車椅子に座り、誰かの介助を受けないと、生活の出来ない身体になり、切なさが募る。
怪我も辛かったけど、それまで10年以上好きだった、友達以上恋人未満の人に、やっとの思いで近況を連絡をしても一方的に絶縁された事も、初めはお見舞いに来てくれた友人達も自分の生活が忙しく、だんだんと疎遠になっていった事も、千穂は人生に絶望して、孤独になってしまい、心は凍りついた。
自殺をしようにも、自分では何も出来ない為、生きるしかなかった。
もう人を好きになる事なんて、二度とありえないと思った。
それでも、数年間、休まずに続けたリハビリのお蔭で、両手の指先は僅かに動くようになった。
排泄も麻痺が治り、トイレに連れて行ってもらえば、きちんと出来るようになった。
スマホの操作が出来るようになり、心にほんの少し余裕が出来た頃、長年のメル友だった大事な人に、重い話なので、引かれて友情を失うのも覚悟で、それまでの事情を詳しく話したところ、その人は、一緒に共感してくれたのだ。
千穂は、素直に嬉しかった。心の氷が少し溶けていくのを感じた。
それから、いつしか新しい恋が生まれた。
ボロボロでも、諦めずに生きていれば、良い事がある。
だから、現在、千穂は身体は不自由でも、心は幸せだ。

END.
2015.8.18.

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