星月夜1

□16.翡翠と幸せな予感
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玲は、さらさらの黒髪と切れ長の瞳が印象的で、柔らかな衣から少し覗く肌は、絹のように白く滑らかな、美しい姫だ。
やがて、小さな足音が聞こえ、部屋に入って来たのは、この国で最高位の者しか身にまとう事の出来ない白絹の上衣に、同系色の裳を着こなし、高く結い上げた髪には美しい宝玉が輝いている高貴な女性だった。
この女性こそが、玲の姉である咲耶、この秋津国の帝だ。
「姫、今日は良い物があるのよ」
「まぁ、姉上様、私にまでお気遣いなさらないでくださいませ」
そう言いながらも、嬉しそうな妹に咲耶は綺麗な布に包まれた小さな包みを渡す。
包みから現れたのは、春の若葉のように美しい翡翠の勾玉だった。
「越の諸国の献上品から見つけたのだけど、姫が持っていなさい」
「ありがとうございます。姉上様」
「これはきっと、そなたを護って幸せに導いてくれるわ」
「あら、私は今でも十分幸せですわ」
この子は、生まれた時から幽閉同然の身で育ち、帝となった咲耶がやっと手元に置くことが叶い、自由に暮らせるようになったのだ。
健気なことを言う小さな唇をそっとふさぐと、身体を抱きしめ、愛しあった。

* * * * * * *

それから時は過ぎ、現代。
玲は、親戚の家で蔵の整理を手伝っていた。
奥の引き出しをそっと開けた時、小さな若葉色の翡翠の勾玉がキラリと光った。
それを手に取ってみると、ずっと自分の物だったような懐かしい感じがした。
親戚から、蔵にはもうガラクタしかないので何か好きな物があれば、自由にして良いと言われている。
玲は、遠慮なくそれを貰うことにした。
手伝いも終わり、明るい陽射しの下で、その勾玉を見ると、さっきとはまた違ったように輝いた。
何か、素敵なことが始まる予感がした。

END.
2015.8.20.

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