星月夜1

□18.影も仲良し
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放課後の図書室は静かだ。
図書委員のエリーは、貸出簿のチェックしていた。
紫のフレームに黒地にピンクドットのシートがあしらわれ、ホイールカバーもメルヘンな紫地に黒いシルエットがまたお洒落な、簡易型の電動車椅子に座っていた。ハーフサイドアップに結わえた黒髪にもさりげなく紫のリボンが飾られている。
静かになれるこの時間は、ちょっと落ち着く。あと10分もすれば寮に戻り、また喧騒の中を過ごさなくてはならない。
「はぁ〜、今日も疲れたなあ」
もう誰も来ないかなと思い、そろそろ帰り支度を始めた時だった。コンコンとノックの音がし、入り口の引き戸がガラリと開いて、誰かが入ってきた。
ちょっと癖のある黒髪をツインテールにし、赤いフレームの眼鏡をかけた小さな女の子が入ってきた。ベージュ地にブラウンチェックの簡易型の電動車椅子に座っていて、とても可愛らしい少女だ。
「遅くなりました。本の返却、出来ますか?」
「もちろんよ。ティナちゃん」
「あっ!その声はエリーお姉さま」
ティナは、嬉しそうに頬を薔薇色に染めた。エリーはそんなティナが心から大好きだった。
見た目よりもピュアで内気、おとなしく繊細なティナは、同年代の子達とは一緒に遊んだりしない。
ひとりで美しい世界を空想したり、読書をする時が、彼女にとっては一番楽しいのだ。
そんなところは幼い頃の自分とよく似ている。
こんなエリーとティナが仲良しなのは、学年は離れているが、家が近くて幼なじみだからだ。
図書室を閉めて、廊下に出るとふたつの車椅子が並んだ。
「寒くなったね〜」
「そうね」
隣の小さな手はちょっと冷たくなっていたので、エリーは自分の温かい手を重ねた。じんわりと温もりが伝わっていく。
そんなふたりのうしろには、影も手を繋いで仲良しだった。

END.
2021.12.02.



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