星月夜1

□19.青春の影
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ちょうど18歳の誕生日に、私は叶わない恋に落ちた。
でも、その恋をしている時、私は世界で一番幸せだった。
「好きです」と告白もして、こっぴどくフラれた。
好きという気持ちだけでは、ダメなのだということを初めて知った。
私にとってのあなたは運命の相手でも、あなたからみた私は、せいぜい親しい友達止まりで、恋愛の対象ではなかった。
それでも友達としてでも良いから、近くであなたが他の相手とでも幸せになるのを見ていたかった。
それから、すぐに10年が過ぎた。いつの間にか、あなたとの連絡も途絶えた。
そろそろ、この片想いを卒業して、私も新しい一歩を踏み出さなければならない。
だから、最後に胸にあふれるこの想いをすべて手紙に書き出して、終わりにしよう。
あなたが今どこにいるのか、何をしているのかは、もうわからないけれど、どこかで同じ空の下、同じ空気を吸っているのだと考えるだけで心が満たされる。
そう考えると少しだけ元気が出る。
私のことなんて忘れてもいい。ずっと思い出さなくてもいい。
ただ、出会って恋に落ちたあの日の空が青くてとても綺麗だった事だけは覚えていてほしい。
出会ってくれて、本当にありがとう。
そして、さようなら。
「……」
泣きながらすべての想いを数枚の便箋に綴り終わった後、封筒にあなたと一緒に撮ったプリクラと便箋を入れた。
封筒に封をすると、その手紙をトランクの底に仕舞い、想いを封印した。
それから私は、戸棚の引き出しの他の荷物を片付けた。
中にあった物を全部手放すと、かなり身軽になった。
トランクに、手元に残した大切な物だけを詰め込み、蓋を閉じる。
そして、寮の部屋の鍵を手に取り、靴を履いて外に出る。
部屋の鍵を閉めて、管理人に鍵を返すと、これで全てが終わった。
本当に長くてつらくて、楽しい日々だった。
だから、これから先、どんな未来が待っているのかは分からないけど、きっと大丈夫だと思う。
駅のホームに着く頃には、タイミングよく電車が到着していた。
電車に乗り込みドアが閉まる直前、振り返って寮の方を見ると、私の部屋だった窓際にあなたの幻影が見えた。
そして、次の瞬間にはドアが閉まり、影は見えなくなった。
こうして、私の恋と青春の第一幕は終わった。
それからは新生活に慣れる事で精一杯だったが、それなりに充実した生活を送れていると思う。
でも時々、ふとした時に思う事がある。
もしあのままだったら、どうなっていただろう?
そんなことを考えても仕方の無いのに。
そんな時は、トランクの底にある、あの手紙のことを思い出す。
そして、私は、また前を向いて歩き出した。新たな出会いや、楽しい日々が待っている未来へと。
それから、さらに数年後。
旅行の後、荷物を片付けていると、トランクの底から、あの想いを封印した封筒が出てきた。
「あら、これ何?」
「お 守りよ。青春の想い出」
今だから言える、最高の日々のこと。
大切な私の恋と青春。

END.
2022.07.03.



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